金次郎、話題のおじさんビジネス用語の使用をシミュレーション!

最近おじさんビジネス用語が話題になることが多いですが、その主要なものを解説した用語辞典を眺めていると、これは金次郎の勤めている会社で編纂されたものではないかと確信してしまうほどオフィスでの日常会話で頻出しているものが数多く掲載されていて驚かされます。いまどきの若者には通じないことから少しずつ使用頻度が落ちる傾向は有るものの、依然として確固たる地位を占めるこれらの表現ですが、たちの悪いことに金次郎の会社では謎の英単語もどきのカタカナ語が更に混ざり込んでしまうために一層意味不明瞭となるケースが多く困りものです。江戸時代に薩摩藩が幕府や他藩からの密偵をあぶり出すために特殊な方言をわざと公用語としていたという話を思い出さずにはいられないほど時に暗号めいた会話が繰り広げられるわけですが、イメージとしては以下のようなものとなります(勿論完全なフィクションです!)。上司であるAさんは40代後半、直属の部下Bさんは40歳前後、たまたまカフェで隣に座ったCさんの心の声が漏れていますが、彼は就活準備中の大学生という想定です。さて、皆さんはどの程度理解できる=おじさんでしょうか(笑)。

A「B選手、アサップでお願いしていた顧客向けのプレマテ、ポンチ絵のところとか気になるからたたき台ベースでいいのでちょっと見せてよ。」(C:ん?ヤバいぞ、全然意味が分からん。プレマテはプレゼンテーションマテリアルのことだよな。たたき台ベース?台をたたく、そうかバナナのたたき売りみたいな感じってことか。安売りする話をしているのかな。このお隣のBさん何の選手なんだろう。)

B「すみません、まだ先方への提案の一丁目一番地をどうするかの方針が決まっていないのと、データが一部揃ってなくて超生煮えなものしかお見せできないのですが。」(C:ここで話題になっている会社の住所は確か3丁目だったし、生煮えって何だよ、分からん。ちょっとしか煮えてないぬるくて不味いものでもいいかってことかな。それは大学生の俺でも分かるが、絶対ダメでしょ。)

A「結構デッドライン迫ってるから、方向性はえいやで決めて、データについても足りない部分は鉛筆なめなめしてとりあえずよしなに帳尻合わせて作ってみてよ。寝かしておいても状況はインプルーブしないから、できるところは決め打ちして、先ずは手足を動かしてやってみないと始まらないでしょ。プレマテは前に作ったものをいくつかがっちゃんこすればある程度はできると思うよ。」(C:これは本当にまずいぞ。こんなに分からな過ぎで俺社会人になれるのかな。えいやはちょっと分かる。たぶんA屋かB屋のAの方で決めるってことでしょ。それより、手足を動かしてがっちゃんこするっていったい何のことだろう。資料を作るのに足は使わないよな。がっちゃんこは字面的にはガチンコのハードバージョンみたいな感じかな。命懸けで資料作りとは仕事への覚悟が問われるな。鉛筆って舐めるもの?どっちかと言うと俺は色鉛筆舐めたい。)

B「そうですね。ところで、そもそも論で恐縮なんですが、この案件やることありきで進めて本当にいいんでしょうか。私は改めてゼロベースで本件の是非を議論した方がいいんじゃないかと思うのですが。」(C:そもそも論?しもしもー、みたいな呼びかけか?やることありきは全然わからんけどたぶんやる気スイッチみたいなものか。ゼロベースはなんとなくわかる。ゼロになれ、無になれ、心を無にしろ、という精神論でしょう、きっと。そういうの最近流行らないよね。もしかしてこの会社ブラックなのかな。)

A「今更そんなこと言ってもトゥーレートでしょう。すっかり外堀は埋まってしまってるし、この案件は社内で政治銘柄になっちゃってるからもうごめんなさいってわけにはいかないよ。」(C:この会社は政治家とも関係が深そうだな。すごい情報をゲットした。安定してそうだしこの会社を第一志望にしよう。)

B「やっぱそうですよね。分かりました。ところで、正直ベースで表に出すとディールブレーカーになりそうなポイントが幾つか有るのですが、ここはどうしましょうか。あと、コストもかなりかつかつなんですが見積はトントンぐらいのところで出せばいいですか。」(C:正直ベース、誠実そうないい言葉だな。自分でも使おう。私の長所は正直ベースさと堅実さです、という感じかな。かつかつでトントンとはなんかビートが効いていてノリがいいフレーズだな、ノリのいいところもこの会社気に入った。)

A「現時点ではそこは上手くお絵描きして資料の中に紛れ込ませておいてよ。会議の場で指摘されたら上手く対応するから。その辺は阿吽の呼吸でいこう。コストのところは少しくらい足が出ても、この案件がフライすれば他のところでシナジー出るから、それでいってこいになると思う。」(C:また出た、足。この会社って足が重要なのかな。足で稼ぐ、みたいな。いってこい、ってどこに?信濃路に行って来い、ということか?フライするというのは飛行機で飛んで行っていいってことだよな。寸暇を惜しむ社風、やっぱイケてるわ。)

B「全社目線で考えるという点理解しました。仕事がパンクしないように若手のWLを一部使ってもいいでしょうか。プレマテもペライチというわけにはいきませんので突貫工事でそれなりの作業になると思いますし。」(C:WLって何だ?with loveか?建設工事に愛をこめるというのは新しい。そういえばさっき外堀埋めるとか言ってたしな。面接で愛をこめる社風に共感しましたって絶対言おう。私も一緒に愛をこめて外堀埋めたいです!よし、いい感じ。)

A「了解。ではZ君の業務を一部外した上で対応してもらおう。Z君はそちらの仕事を結構頑張ってたからデモチにならないようエンカレッジしておく。全員野球でよろしく頼むよ。」(C:おっと俺のロールモデルになりそうな若手Zさん登場。でも、なんか餅もらうのもカレッジに入り直すというのもちょっとピンと来ないな。そもそも俺は野球が苦手だから全員野球部がマストっぽいこの会社やっぱ無理かも。)

おじさんビジネス用語よりもCさんのキャラが目立つ感じになってしまいました(笑)。通常モードに戻ると言っておきながらややくだらない内容となり恐縮です。以下、気を引き締めて本の紹介をいたします。「天路の旅人」(沢木耕太郎著 新潮社)は「深夜特急」で知られる紀行文の名手沢木先生による、第二次大戦末期に日本政府の密偵として敵国である中国で内蒙古出身のラマ僧に扮し、中国西部の辺境からチベットを経由しインドに至るという気の遠くなる行程を殆ど徒歩で踏破した唯一無二の旅人西川一三の人生を描いた壮絶なノンフィクションです。一三の出身は山口ですが高校はかのブレイディー・ミカコ先生と同窓となる福岡の修猷館卒ということで、福岡出身の金次郎としては親近感を感じつつ穏かな気分でこの本を読み始めました。ところが読み進めるうちに、そんな普通の高校生だったとは到底思えない一三の想像を絶する忍耐強さ、未知の領域を切り拓くことへの飽くなき情熱、旅を円滑にする様々な言語習得への拘りなどの彼の超人ぶりに触れ、自然と背筋を伸ばしてこの本に向き合うようになりました。そして、そんな一三の真摯さがどこに行っても尊敬を集め一目置かれるという事実に、生きていく上で大切なことの本質に眼を開かされた感覚で、非常に得るものの多い読書体験となりました。とにかく経済的に最底辺の人々の中に飛び込み、必要とあらばラマ教(チベット仏教)の修行も真剣に行い、そんな中でしっかりと役割を果たして自らの立場を確保し周囲と関係を築いていく姿には感動させられますが、そんな暮らしの中で実際に一三が悟りの境地に近づいていると感じられる描写が散見され、感情移入して読んでいるだけの金次郎でさえ修行の末に辿り着いた人間精神の高みを疑似体験できて崇高な気分にすらなりました。もしかしたら今は失われてしまっているかもしれない、魂を捉えて離さないような美しい風景の描写も、そんな厳かな心境に至る一助になっていることは間違い有りません。また、泳げない筈の内蒙古人と偽っている一三が急流を泳ぎ渡って驚かれその後何度も泳ぎを強要されたり、山中で危険極まる匪賊に襲われどうにか難を逃れたり、インドの鉄道無賃乗車で車掌を拝み倒して許してもらったり、歌を歌いながらでんでん太鼓を叩いて托鉢して回ったりと、時に滑稽な非日常のシーンで思わずニヤリとさせられる場面も多く楽しい読み物でもあります。一三がヒマラヤを9回(一説では11回)越えたという話は物理的にアンビリーバブルですし、30年以上の時を越えて、一三と沢木先生の二人がブッタガヤの有名な菩提樹の下で読経している盲目のインド僧に同じように邂逅していた事実が明らかになった際に感じたぞくぞく感は忘れられません。現時点で今年最もおすすめの作品ですのでちょっと長いですが是非夏休みにでもお読みいただければと思います。

リーダーフレンドリーになるようにもう少し短くしたいのですがまた今回も長文となってしまいました。次回以降調整を試みますのでお見限りのなきよう宜しくお願いいたします。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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