クリスマス前の洋菓子と言えばシュトーレンで決まり!

最近季節を感じるお菓子であるシュトーレンをたて続けにいただく機会が有り、昨年新百合ヶ丘のリリエンベルグでその真の美味しさに出会いすっかりファンになったところでしたので、元々シュトーレン好きであった妻共々大喜びで食べております。少し前のブログにも書いた通り、怒りのダイエット中である金次郎にとって、賞味期限が長く少しずつスライスしながら食べられるというシュトーレンならではの特徴が非常に有難く、しかも日を追うごとにドライフルーツの味が生地に染み込んで旨さが増すという優れものにて、毎日ちびりちびりと味わって楽しんでおります。

とは言え、その美味しさ故になかなか次の一口を我慢するのは難易度が高く毎日自制心との闘いとなっております。シュトーレンはドイツのザクセン地方発祥のお菓子と言われており、イースター前の断食期間に食べていた小麦粉をこねてこしらえただけのシンプルな食べ物があまりにも味気無かったことから、教区司教の許しを得てナッツやレモンピール、オレンジピールなどのドライフルーツが練りこまれるようになり、あの美味しくてたまらない真っ白いお砂糖の粉をまぶした形状に整えられたのだそうです。名前の由来はその形状で、見た目通り〈棒〉や〈坑道〉という意味のドイツ語で、ちなみにstollenの正しい発音はシュトーレンではなくシュトレンなのだそうです(このブログではシュトーレンで統一します)。ドイツでは一年を通じて日常的に食べられているお菓子なので、このクリスマス時期に出てくるシュトーレンを特別にキリストシュトーレンと呼ぶようで、一説によるとあのお砂糖で真っ白になった状態は、聖誕の際のイエス・キリストが真っ白な産着にくるまれた姿をイメージしているという話も有るようです。意外なことに日本で初めてシュトーレンを売り出したのは我が故郷福岡の老舗である千鳥饅頭本舗なのだそうですが、全国で最も人気が有るのは神戸市生田町の旧神戸ユニオン教会を改装した店舗で営業しているフロインドリーブというお店とのこと。このお店は第1次大戦でドイツ兵として戦い日本軍の捕虜となったハインリッヒ・フロインドリーブさんがシキシマ製パンの初代技師長を経て開いた由緒正しいお店で、現在神戸が国内シュトーレンの聖地となっているのはこのお店が起点になっているからのようです。早速食べたいと思い調達方法について調べてみたものの、オンライン・店頭販売いずれも今年分は完売となっていて、泣く泣く来年の手帳にこのお店のシュトーレン販売開始予定を書き込み準備を整えました。ネットによると東京エリアの人気店として八王子のチクテベーカリーが挙げられており、こちらの幻のシュトーレンも是非食べてみたいところです。などと書いていたら、妻がリリエンベルグのシュトーレンを買ってきてくれました!

さて本の紹介です。「論考 日本中世史―武士たちの行動・武士たちの思想―」(細川重男著 文学通信)は日本中世史を専門とする著者が歴史史料の読み解き方や仮説検証の進め方、独自の歴史解釈から武士たちのリアルな日常や歴史こぼれ話までの広範な内容を、徹底的にカジュアルな文章で分かり易くかつ面白く論じた歴史エッセイ集です。歴史好きではあるものの、古文書を読んだり史跡を巡ったりするようなマニアの域には程遠い金次郎にとっては、古文書を読み他の史料と比較検討して史実と思われるものをあぶり出していくプロセスをこの本を通じて疑似体験できたことはかなりの喜びでした。荘園を雑居ビルに譬え、店子が農民、管理人が荘園領主、ビルのオーナーが領家あるいは本家という図式とする解説はしっくりと腹落ちしましたし、雑居ビルの各階毎に徴税を請け負っている管理人が違い、明確に誰が管理するのかが定まっていない階(=田地)が存在すると近隣の荘司や地頭の間で揉め事の種となりがちという説明も極めてクリアでした。武士の〈家督〉の考え方についてサザエさんの磯野家のメンバーを登場させて説明していたくだりも笑えました。

続けて歴史の本となりますが、「古代日本の官僚 天皇に仕えた怠惰な面々」(虎尾達哉著 中央公論新社)は、古代日本が本当に天皇を頂点とする専制君主国家だったのかという命題について、中下級官僚たちの〈怠惰な〉勤務実態を興味深い実例を挙げながら検証した本です。冠位十二階から律令制度まで色々と官僚の位階制度は変遷したものの、基本的に五位以上の貴族は有力豪族が世襲で務める仕組みであり、六位以下の官人は中小豪族が半ば嫌々勤めていたという事実にそんな感じだったのかと驚かされました。下級官人の家の出身者は所謂貴族と呼ばれる五位以上には上れないという絶対的な階層構造が存在する中では昇進が頭打ちとなる人が多数発生し、当然そういった人々は仕事へのモチベーションが全く湧かないという説明はよく理解できました。結果として、畏れ多い絶対的な専制権力者である古代天皇が周囲を意のままに操っていたというイメージとは程遠いのですが、なんと彼ら官人は頻繁に仕事をサボったり、やりたくないと断ったり、仮病を使って休み続けたりしていたようで、そんな驚くべき勤務実態が実例と共に紹介されていて非常に面白かったです。当時の日本には儒教の主要な徳目である〈礼〉の概念が未だ浸透していなかったために、ルールを守る、天皇を崇めるといった行動様式は特に下々の身分の人々には浸透しておらず、治める側も違反や懈怠に厳罰を持って臨むということではなく、ある程度サボる官人がいることを折り込んだ制度設計にしていたというのが微笑ましく感じられました。天皇の前で官職に任命される任命式に本人が参加せず、やむなく式部省の役人がなんと代返で対応していたというのはなかなか笑えるエピソードでした。

「愚者の街」(ロス・トーマス著 新潮社 )はスパイ小説の巨匠の手による、〈町をひとつ腐らせる〉というとんでもないタスクを与えられた元諜報員、元悪徳警官、元娼婦そして青年実業家から成るチームが、アメリカ南部のメキシコ湾に面する街スワンカートンを舞台に地元の実力者達と騙し騙されのシーソーゲームを繰り広げるという内容のなかなか面白い本でした。偉そうに巨匠と紹介しましたが、金次郎はこの著者を全く聞いたことが無いという為体で、こんなに面白い未読作家の作品が有るのかと改めて読書の奥深さを思い知らされました。上巻では主人公ルシファ・ダイの人生が途切れ途切れに語られ彼の過去が徐々に明らかになりますが、1937年の上海爆撃で父親を失い、拾われた娼館で育てられ、その後色々有って直近はシンガポールと思われる島国の刑務所に収監されているという数奇な運命ぶりもさることながら、その間に彼がどのような経緯で心を失っていったかのストーリーが印象的でした。物語中で〈誰にも勝とうとしていない負け犬〉と称され、それが故に有能とされるダイが任務をどのようにこなし、失った心を取り戻していくのか、単なるスパイ活劇ではないじっくりと味わえる趣深い小説ですので是非ご一読されることをおすすめします!

妻が買ってきたリリエンベルグのシュトーレンを早速食べました。一口毎に違う美味しさのバリエーションが楽しめる感覚は、ジャンルは違えど鮨一心の江戸前ちらし鮨の玉手箱感を彷彿とさせました。粉砂糖も美味でお皿にこぼれた分まで舐めてしまいたい誘惑に大人として抗うのがひと苦労です(笑)。

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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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