衝撃タイトル「まだ人を殺していません」で新感覚カタルシスを堪能

突然で恐縮ですが、実はこのところ金次郎夫婦にちょっと辛い出来事が発生しており、家族ファーストということで読書はややお留守となっております。それでもこれまでが読みすぎだっただけで、日本人の平均ぐらいは読んでいるかなと思いますが、しばらくの間少し紹介ペースが落ちたり、ブログの中身のクオリティがやや低下するかもしれない点、ご容赦いただければと思います。詳細には触れませんが、妻が股関節の不調に起因する痛みや全身のしびれ症状に苦しんでおり、もしそういう症状の治療に明るい整形外科医院や整体・鍼灸治療院などご存知の方がいらっしゃいましたら情報を共有いただけますと大変助かります。どうぞ宜しくお願いいたします。しかし、自分の知識の範囲外のものを全てストレスやメンタルのせいにして片付けようとする反知性主義の整形外科医にはうんざりしますね。

さて、そんな金次郎夫婦が気晴らしも兼ねてはまっているドラマが日テレ日曜夜の「真犯人フラグ」です。秋元康企画のドラマで、家族円満、マイホーム建設中と幸せいっぱいだった相良凌介(西島秀俊)ですが、突然妻真帆(宮沢りえ)と子供二人が謎の失踪を遂げ、その後も長期に亘り行方不明になるという不幸に見舞われる展開で、お定まりの周囲の誰もが疑わしく見えるというパターンの中にも、めまぐるしく攻撃対象を変えるネット世論や陰謀論を語る動画生配信チャンネルなど現代的な要素がかなり盛り込まれていて目が離せません。相良が入りびたるバー「至上の時」は金次郎の未踏地帯である中上健次先生の「地の果て 至上の時」(インスクリプト)に由来すると第一話で明かされ、相良も読書好きであることから、読書うんちくが鏤められる展開を大いに期待しましたが、その後読書ネタはほぼ登場せず、この点は少しがっかりしています。

第七話終了現在、「真犯人フラグ」を立てられてしまった相良以外の全員が怪しい状況ですが、第一話で明らかにこれ以上無い幸せ家族演出で所謂「死亡フラグ」が立った状態となった妻真帆がフラグ通り帰らぬ人となるのか、フラグの常識を覆しハピエンとなるのか、はたまたこれまたドラマで定番の最終話に詰め込み過ぎ、つまらないセミナー後のアンケートのように回収されず残る伏線に納得感ゼロの結末となるのか、過度には期待せずこのまま観続けようと思います。

役者陣では、あのクールで強そうな西島さんがちょっと抜けていてずれている頼りないおっさん相良を好演されているのが目につきますし、若干関西弁は厳しいところもありますが、演技に定評のある芳根京子さんも相良を完璧にサポートするスーパー女子でいい味を出されていますし(今後はどうなるか微妙)、元乃木坂の生駒里奈さんもヤバい人を怪演されていてイメチェン気味でなかなか面白いです。謎のキャラが香里奈さんではないかとの疑惑の審議も気になります。ちなみに、うちの妻は佐野勇斗さんが好みだそうです(笑)。

さて、本の紹介に参ります。衝撃タイトルの「まだ人を殺していません」(小林由香著 幻冬舎)は義兄が殺人犯として逮捕され、姉の忘れ形見の少年を育てることになった主人公が、愛されてこなかった自身の過去や、心に傷を抱え周囲とのコミュニケーションを閉ざし、非常に不可解で猟奇的にすら見える行動を取る少年との関係に苦悩しながら親として人間として成長していく姿を描く社会派サスペンスミステリーです。この不穏以外の何物でもないタイトルと、前半の後味の悪い悲しいエンディングしか予感させない危い雰囲気からは想像できないじんわりくる結末で、こういう感じの伏線回収のカタルシスはあまり経験したことが無く、とても新鮮な読後感でした。とにかく前半はキツい内容が続くので、読まれる方は金次郎を信じて辛くても歯を食いしばって先に進まれることをお薦めします。

「絶叫」(葉真中顕著 光文社)は名前も含め平凡で特徴の無い主人公鈴木陽子が、標準的かつそれなりに妥当に見える人生の選択を繰り返しているだけなのに、いつしか男に騙され、保険営業の闇にはまり、風俗に落ちるという、驚くほどありがちな不幸のステレオタイプにはまり込む前半から一転、底辺を経験した後見違えるように独創的な犯罪を繰り返す過激な後半は迫力満点です。同時並行で進む過去と現在がクロスオーバーした瞬間明らかになる謎の破壊力が抜群の秀作です。

「砂戦争 知られざる資源争奪戦」(石弘之著 KADOKAWA)は経済成長に伴う都市化の加速がもたらす砂資源の逼迫について解説してある本でなかなか興味深い内容でした。資源と聞くと原油(約50億トン/年)、天然ガス(約30億トン/年)、石炭(約80億トン/年)というようなものがメジャーどころとして思い浮かびますが、なんとセメントの骨材、埋め立て、シェイルガス/オイル掘削などに使われる砂(砂利)の史上規模は500億トン/年!しかも非常に重要な戦略資源である砂の流通は一部マフィアに牛耳られており、砂掘削による環境破壊や違法労働を訴えたNGO職員や記者が暗殺されるなどメジャー資源とは思えぬブラックぶりです。我が第二の故郷シンガポールは埋め立て用の砂需要が大きく、世界最大の輸入国だそうですが、供給先であったインドネシアが自国需要を賄うために輸出を禁止したことから埋め立てによる領域拡大、インフラ整備がなかなか難しくなっているようです。砂の主要輸出国となったカンボジアから密輸しているという話も紹介されています。ちなみにインドネシアでは砂採掘のせいで島がいくつか消失してしまったようですが、島がたくさん有るからいいよねという話ではないですよね。(苦笑)。その他にも、砂がどうやってできるのか、砂の種類の説明(粒子が細かい砂が泥なのだそうです)など情報が豊富で、砂漠はその名の通りせっかく砂がふんだんに有るにも関わらず、塩分などの問題で建設用途には使いづらいとの皮肉な情報も紹介されていました。

最後は、「教団X」(集英社)の中村文則先生の最新作「カード師」(朝日新聞出版)の紹介です。破滅願望を持つ占いを信じていないイカサマ占い師が主人公という明らかにこじらせた感じの暗い雰囲気の小説なのですが、どうやら将来の不確実性に絶望するか、そこに希望を見出すか、というようなテーマについて描かれているように読めます。ただ、相変わらずシュレディンガーのネコ的な物理の知識とかが登場し、相当ややこしい内容でどうにも理解不能な部分が有り再読必至かと思います。とはいえ、クライマックスの超違法カジノでの全財産のみならず命まで賭けたポーカー勝負の神経戦は、ひりひりするような緊張感で少しだけかつて仕事で大きなリスクを取っていた頃を思い出しぞっとしました(笑)。やはりどんな勝負も如何に冷静さを維持できるかが鍵ですね。

今週世界を騒然とさせているオミクロンの次はパイだそうですが、これは無限に続く雰囲気がふさわしくないので使われなさそうですね。その次のローも響きが微妙なので、次の変異株はシグマ株と予想いたします。


読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA