金次郎、ふと中国での地獄の飲み会について思い出す

コロナ真っただ中の時は不思議と思い出しませんでしたが、最近少しずつコロナ感染者やはしか患者が増えてきているとのニュースを見て、ふと10年以上前の恐ろしい感染体験について思い出しましたのでそのことについて書いてみようと思います。当時金次郎は中国顧客との関係構築を目指し、また来たのとうんざりされながらも毎月のように現地に出張し面談&会食を繰り返しておりました。基本的には上海地域が中心でしたが、時には揚子江をやや遡った場所に位置する顧客のオフィスまで車で数時間かけて通うこともしばしばでした。あれは確か冬の非常に寒い時期の出張だったと思いますが、

その時も地方ツアーが組まれており、いつも通り同僚と仕事の話を3割、バカ話を7割するというやじきた珍道中的な感じで高速道路を顧客に向かって調子よく走っておりました。ところが、走り始めて1時間ほど経過したところで、金次郎はいつもよりかなり気温が低いと感じ、暖房を強めたり上着を着たりと色々やってみたのですが、なかなか体感温度が上がりません。寧ろ上がらぬどころかどんどん寒さが増してくる感じだったので、仕方無くモバイルPCの電源を入れその熱で暖を取るという緊急措置を講じたりしてその場をしのいでおりました。凍えながらもどうにか幾つか面談をこなし、最重要顧客との夜の宴会に間に合うよう車を飛ばして上海まで帰り着いたのは良かったのですが、ホテルで少し休養を取っても全く寒気が治まらず、その頃にはどうもこれは体調不良に違いないと感じ始めておりました。そんな状況ではありましたが、先方はいつも通り飲み会での数的優位を確保すべくビジネスとは無関係のチリチリパーマの経理のおばちゃんも飲みの戦場に投入してやる気満々でしたし、お互いに食事の前にヨーグルト(中国語では酸乳)を一気飲みして勝つのは俺達だと威嚇の応酬をしてしまったからにはもう後には引けず、毎月恒例のカオス飲み会に突入せざるを得ない状況となりました。中国顧客とは、ビール、紹興酒そしてアルコール度数がとても高い(そしてまずい)白酒を吐きながら飲み、泥酔する経験の共有を重ねるプロセスを踏んで初めて仲良くなれるということで、関係構築に向けて気を抜くわけにはいかないと自分を叱咤し、体調不要を感じさせないパフォーマンスを示すことに集中し、それなりにやり切ったとの自負を感じつつ、意識朦朧としながらホテルに戻りました。部屋に戻った直後は酔いで麻痺していたのか割と平気だったのですが、地獄となったのはその数時間後で、とにかく気持ちの悪さが尋常でなく、夜中じゅうトイレで吐き続け、部屋に置いてあったミネラルウォーターも飲み尽くし、カラカラになった状態でようやくなんとか朝を迎え、一緒に出張していた後輩にポカリスエットを買ってきてくれるよう頼めたのでどうにか人心地つくことができました。彼がコンビニから帰ってくるまでの10分程度が何時間にも感じられましたが、とにかくポカリで水分補給さえできれば大丈夫、それまで頑張ろうと自分に言い聞かせ、彼が飲み物のペットボトルを持って帰ってきてくれたのを目にした際は大げさでなく彼が救世主に見えました。しかし、しかしです、その救世主が差し出してきた飲み物は、なんとポカリではなく、無情にもアミノバイタルだったのです!金次郎の身体が求めていたのは体中に沁みわたる水分であり、ムキムキの筋肉を形成するたんぱく質ではありません。。。これしか無かったんですよねー、と済まなさそうにしている後輩に絶望的な気分でお礼を言いつつ、涙ながらに歯を食いしばって蛋白質を無意味によく噛んで補給したのを鮮明に覚えております。それからボロボロの状態で空港に向かったのですが、体調不良で心拍が速くなっているためか体内時計が全く機能せず、ラウンジで搭乗を待っている間じゅう、「もう30分ぐらい経った?」、「いえ、まだ5分しか経ってません。」という会話を何度となく繰り返し、奇跡的に発熱ではじかれずに飛行機に乗ることができ、無事帰国することができました。帰宅して直ぐ病院で検査してもらったところインフルエンザとの診断で、インフルになりながら泥酔して吐きまくったのかと思い返して命の危機を感じぞっといたしました。金次郎もそれ以来そんな無茶はやめましたが、皆さんも健康第一ですのでそういう無理はやめましょう。まぁやりませんね(笑)。そして、感染症が疑われる際にお酒を飲んで菌やウイルスをアルコールで消毒するという方が結構いらっしゃいますが、あれは効かないと断言いたします。

さて本の紹介です。GWで時間が有ると調子に乗ってしまい「ソロモンの偽証」(宮部みゆき著 新潮社 1事件2決意3法廷)に挑戦してしまいました。この作品は2002年から2011年にかけて足掛け10年に亘り連載された、単行本にして合計約2200ページという超超大作で、宮部みゆき先生の代表作と言える名作です。物語はある区立中学で発生した不登校生徒の墜落死に始まり、彼の死が自殺なのか他殺なのかを巡る議論がメディアや世間を巻き込みながら広がっていく様子を描く事件編、登場人物たちが様々な過程を経て事件と関わり合い、真実に向き合う覚悟を決める決意編、そして中学生とは思えない(と言うか有り得ない)ハイレベルの模擬法廷で真実を導き出すための議論が繰り広げられる法廷編とに分かれて描かれる大変重厚な内容となっております。また、21世紀に入ってみて、前世紀後半のバブルによる社会の歪み、いじめ問題とそれに対処しきれぬ学校教育の限界、そして今でいうところの中2病などを冷静に眺め直した社会派小説として読むのも面白いと思います。最初は冷ややかに文字通り第三者的に事件を静観していた主人公の藤野涼子が、腹を括ってこの事件にコミットすると決意した後に見せる怜悧かつ苛烈な検察官ぶりは堂に入っている以外の何物でもなくそのカッコ良さに感動します。弁護人側の神原和彦の理知的なスタイルと、その抱える闇によって醸し出される複雑さという人物像のギャップもまた良いのですが、金次郎は重要な脇役である三宅樹里の抱える屈託が人間性に反映され生々しく強烈に描写されている様にとにかく鳥肌が立ちました。こちらもイケている井上判事をはじめ、不良グループや陪審員などたくさんの登場人物が出てくるのですが、それぞれの人間性や感情の起伏が一貫性を持ってくっきりと描かれており、こんな超大作を微塵も破綻すること無く描き切ったことも含め、宮部先生の凄まじい筆力に恐れ入りましたと土下座したい気分になる読後感でした。中学生が大人過ぎるというある意味リアリティの無さに対し、登場する大人たちが基本的にダメダメで人間らし過ぎるという圧倒的な現実感というギャップはこの子供たちは絶対こんな大人にはならないだろうという非連続な感覚を惹起しますが、世紀の変わり目に社会が不可逆的に変わってしまったことに対し皆さんはどう対処しますか、という宮部先生からのメッセージだったような気もします。

中国での飲み会について書きましたので最後に簡単に。「食われる国」(萩耿介著 中央公論新社)は著しく国力の衰えた2050年の日本を舞台に、中国を中心とした海外資本に国家の主権や人々の自由が侵食されていく様を、恐ろしいAI裁判や特別刑務所での洗脳の様子と併せて描くディストピア小説です。「イモータル」(同)がなかなか面白かったので読んでみましたが、やはりオーウェルの「1984年」は越えられず、しかも若干ヘイト的なニュアンスも感じられてそこまでのめり込むことはできませんでした。ただ、2050年とはされていますが、もっと早くそんな状況に陥らないとも言い切れず、少なくとも国家主権をしっかりと主張できる程度にはこの国の国力や活力が維持されるよう、微力ながら何か貢献せねばと危機感は持ちました。

敬愛する先輩ご夫妻と金次郎夫婦での温泉旅行を計画中で今からかなり気分が高揚しております。いつもは漢方入浴剤で疲れを取っておりますが、リアル温泉との効果の違いを確認してこようと思います。


読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA