金次郎夫婦、野性味溢れる猫たちに癒されまくる

夫婦で家の近所を散歩していた際に謎のロボットカフェというものを見つけ、こんなよく分からないコンセプトカフェが有るのなら、我々夫婦が愛してやまない猫カフェも有る筈だ!と思い立ち、この地域に住み始めてから16年、一度もやったことが無かった猫カフェ・人形町での検索を実行してみました。すると、なんと我が家から僅か徒歩4分という奇跡的なロケーションで5年前から猫カフェが営業しているではありませんか!

直ぐにでも訪問したかったのですが日程の調整が必要で、どうにかやりくりしてようやく先週にどきどきしながら行って参りました。興奮し過ぎてかなり早めに到着してしまい、ビルの下で不審者のようにうろうろして夕方の部のオープン時間を待った後、入店して注意事項をうかがい、手を消毒して猫フロアに足を踏み入れるとそこは正に天国で、12畳ぐらいの部屋に好き放題に寝そべり、人間に媚びるわけでも怖がるわけでもなく泰然としたたくさんの猫たちに囲まれ、ここ数年で一番癒され幸福感に陶然といたしました。人気猫種ばかりを集めたビジネス臭むんむんの血統書猫カフェではなく、保護猫カフェということでしたので、ダメな人間にいじめられたり多頭飼いで飼育崩壊した家から救出されたりしたかわいそうな猫たちがいるものと勝手に想像しておりましたが、現実はそれとはまったく異なり、猫たちは金次郎には想像もできなかった来歴をお持ちの方々でした。現在そこにいる17匹は、全てが遠く伊豆諸島の御蔵島からやってきた猫たちで、殆ど人に飼われたことの無い原野猫なのだそうで、そう聞くとあのどんなに撫でても悠然としている堂々たるくつろぎぶりも腑に落ちる気がしました。店長さんに話をうかがうと、御蔵島は渡り鳥で準絶滅危惧種に指定されているオオミズナギドリの一大繁殖地となっていて、天敵のいない海の楽園としてかつては数百万羽のオオミズナギドリが渡ってきていた場所だったそうです。ところが、いつの間にか人の手によって島内に持ち込まれた飼い猫たちが野生化しつつ大繁殖し、飛ぶのは上手いが歩くのは苦手で地上ではのろのろとしか動けないオオミズナギドリをハンターさながらにどんどん捕食し始めてしまい、この数十年でオオミズナギドリが数十分の一にまで数を減らす一方で猫たちは数百匹にまで勢力を拡大してしまったようなのです。ある調査によるとなんと1匹の猫が年間300羽以上のオオミズナギドリを食べてしまったという記録もあるようですが、当然そんな状態は長くは続かず、渡り鳥が年中いるわけではないことに加え、鳥が激減し猫が激増した結果かわいそうに餓死する猫も出てきてしまい、この生態系の歪みを何とかせねばと、(金次郎も馴染みのある)山階鳥類研究所の研究員とボランティアの方々による御蔵島猫捕獲大作戦が始まったのだそうです。そんな原野猫の一部がうちの近所の猫カフェにやってきてくれ、たくさんの人を癒してくれているのですが、どんどん里親さんを見つけて譲渡しまくらないと、追加で島からの猫を受け入れられないという事情も有り、それなりに猫たちの入れ替わりは激しいようです。店長さんも愛情深く接しておられましたが、別れが辛くならぬよう、心に一線は引かれている感じで、絶対に淋しい瞬間は有る筈なのに、彼ら、彼女らの幸福を想って淡々と猫たちの世話をされているその姿勢に大変感動いたしました。金次郎夫婦ももう少し通ってみて、アレルギーなども慎重に確認しつつ、今後の方針を定めて運命の出会いを待ってみようかと相談しているところです。

さて本の紹介です。すっかり忘れていた本屋大賞ノミネート作品全部読むプロジェクト。今回は2016年度第4位の「永い言い訳」(西川美和著 文藝春秋)です。見栄っ張りで自尊心が強く傲慢な作家津村啓は売れない時期に生活を支えてくれた妻夏子に対する引け目というネガティブな感情と折り合いを付けられず、夏子との関係悪化を修復することもできないままに不倫に走ってしまいます。そんな折、夏子はツアーバスの事故で突然亡くなってしまい、彼女に対する自分の気持ちに向き合うことが全くできない津村は涙すら流せずにいましたが、夏子の親友で同じ事故で亡くなったゆきの夫であるトラック運転手の大宮と知り合い、妻の死に打ちひしがれる大宮とその家族の世話をすることで徐々に感情を取り戻していくのですが・・・というお話です。自己愛が強すぎて他人を思いやることもできず、夏子との関係を客観視することも自らを省みることもせずに人間らしさを失っていた津村が、大宮一家との関係を深めその有り様を内と外から眺める過程を経てようやく自らを相対化し、内省そして悔恨という人間らしいまともな感情を取り戻し再生していく様子は非常に生生しくて胸に刺さります。最終盤までずっと続く津村のダメ人間ぶりにイライラしますが(笑)、ラストは結構感動して前向きな気分になれるので、読み通すのにやや忍耐を必要とはするもののおすすめの一冊です。珍しく映画版を観てみてもいいかなと思える作品でした。主演の津村役は本木雅弘さん、大変魅力的な美容師の夏子役は深津絵里さんという豪華キャストです。

このミス大賞作である「名探偵のままでいて」(小西マサテル著 宝島社)は、レビー小体型認知症を患っている老人が幻視などの症状に苦しみつつも、症状が出ていない僅かの間に明晰な推理を披露し孫娘である楓の周囲で発生する〈日常の謎〉を解き明かしていく連作短編ミステリーです。やや設定に無理が有るのではというのが第一印象でしたが、これが意外と違和感無く読み進められるクオリティでちょっと驚きました。ミステリーとしての出来も良く、登場人物のキャラも立っていて続編やシリーズ化も期待でき楽しみです。

「あなたはここにいなくとも」(町田そのこ著 新潮社)は喪失に直面した登場人物たちが、いなくなってしまった誰かや何かにそっと背中を押されて少しだけ前を向くという心に沁みる短編が5作収められている作品です。やっぱり町田先生はDVとか虐待とかを濃く描き込むよりも、さっと気持ちを持っていかれる気になる謎で読者をぐいぐい引っ張りながら、最後にはシンプルだけどしっかりと心に刺さるエンディングが用意されている、まさにここで描かれているような物語が抜群に巧いと思うので、次回の本屋大賞には原点回帰の短編集で挑戦されてはいかがかと勝手に推奨いたします。本の中身では特に「おつやのよる」や「先に生くひと」に登場する可愛らしくてしたたかなお婆さん二人の、人生を楽しみつつも腹を括る覚悟を秘めた生き様には背筋が伸びる思いでした。これから老境を迎える(笑)金次郎も、そんな彼女たちに1ミリでも近付きたいところです。栗の渋皮煮を地道に作っているだけの話なのに、ぞわぞわと背筋が寒くなっていく何とも言えぬ迫力を感じる「くろい穴」もぜひご一読ください(笑)。

少し前ですが大阪出張で食い倒れて参りました。関西支社の若手が紹介してくれた路地裏のうどん屋が雰囲気も有って最高でした。また直ぐにでも行きたいです、大阪。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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