謎のタイトルが気になる「HHhH」(ローラン・ビネ著 東京創元社)

本日、広告大手D社でコロナ感染者が確認され本社は全員テレワークとの対応が発表されていましたが、 金次郎の会社も仮にテレワークとなった場合、 家で読書をせずに職務専念義務を全うできるか、なかなか悩ましい問題なのでそんな事態にならぬことを心から祈っております。

推薦図書紹介本にあった「HHhH プラハ・1942年」(ローラン・ビネ著 東京創元社) は観ての通り意味不明なタイトルがあまりにも不親切で、 読者に手に取ってもらおうという媚が全く無い潔さに先ずは面食らいます。

このタイトルは、Diy(do it yourself:自分でやる)やNimby(not in my back yard:我が家の裏では遠慮します)のような略語で、 HHhH(Himmlers Hirn heißt Heydrich:ヒムラーの頭脳はハイドリッヒと呼ばれる)という意味になるそうですが、GGDD(言語道断)、MKS(負ける気がしない)といったDAI語を聞いた時のあのイラっとする感じが少しだけ蘇りますw

さて本書はフランス文学かつナチスものという高いハードルだったので、最初からかなり守りに入って読み始めたのですが、極めて入念な調査に支えられた強固なストーリーの枠組み、時空を自由に行き来する表現の自在性、シャープな章立てによるテンポの良さ、ルポでもノンフィクションでも小説でもない新感覚の読み応え、に引き込まれ、それなりに長い本ですが一気に読了してしまいました。

ナチス警察保安部の実力者で、〈金髪の野獣〉と恐れられ、ユダヤ人問題最終解決の主な遂行者とされるラインハルト・ハイドリッヒが如何にして親衛隊トップのハインリッヒ・ヒムラーの片腕に上りつめ、そして如何にして暗殺されたのかが、 その暗殺計画であった〈エンスラポイド作戦〉の進行と並行して描かれる内容なのですが、一読後でもタイトルの意味が分かるような分からぬような(笑)。

イギリス政府とチェコスロバキアのロンドン亡命政府が立案したこの作戦の実行役である チェコ人のヤン・クビシュとスロバキア人ヨセフ・ガプチーク及び二人に関わった人々の行動とその後が臨場感あるドキュメンタリー形式で蘇るのですが、事実の羅列にならず、 登場人物の息遣いや緊張感が鮮やかに立ち上がるノンフィクションを超えるフィクションと呼べる筆致は、海外各誌書評で絶賛されたのも頷けるクオリティの高さでおすすめです。構成的には珍しいのですが、途中頻繁に現代の著者視点が入り込んでくることが、読み手の目線を巧みに誘導する効果を生んでいて、やるなと感心しました。

この本の関連本として紹介するのに、フランス文学にするか、ヨーロッパ大戦にするか迷いましたが、今回は後者にしました。

こちらは第一次大戦ではありますが、「八月の砲声」(バーバラ・タックマン著 筑摩書房) は大戦開戦前後の数か月の間、欧州各国が何を目指して、どう葛藤し、どんな決断と失敗をしながら如何に戦ったか、を克明に描いた秀作で金次郎がかなり好きな本です。

JFKがキューバ危機の際に傍らに置いて参考にした本というのも頷ける内容で、 クラウゼビッツやマハンの理論、歴史的教訓からの学び、政治や人間模様がもたらす混沌、が絡み合いながら主要登場人物の判断に影響する様子が不謹慎ながらかなり面白く、教科書で1914年に対戦勃発、としか学べないのは本当に勿体ないというか無意味と思いました。

「ベルリンは晴れているか」(深緑野分著 筑摩書房) はナチスドイツが台頭し、消滅する過程において悲しくも突き付けられる人間の愚かさや弱さ、 救いの無い世界にあっても揺るがない愛情や良心が存在することの希望、 が主な舞台であるベルリンの情景と共にたいへん丁寧に臨場感を以て描かれている力作です。

ミステリー的な部分についても伏線の回収は行き届いておりすっきりと読めますし、 ドイツ敗戦後の分割統治の様子などはあまり意識したこと無く、知識としても新鮮でした。 平野先生の「葬送」を読んだ時も感じましたが、 どうして日本人にこんなにヨーロッパが描けるのだろうと素直に驚かされる作品です。

告白しますと、↑でいかにもフランス文学に詳しそうに書いてしまいましたが、どんなに頑張ってもこのブログ1回分ぐらいの引き出ししか有りません。調子に乗ってすみませんでした。でも近いうちに挑戦してみようかな。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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