「蠅の王」(ウィリアム・ゴールディング著)は「ハエ男の恐怖」とは違った!、そして「危機と人類」(ジャレド・ダイアモンド著)を読了

緊急事態宣言がどんどん解除される方向となり、残るは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県そして北海道となりました。どうでもいいですが、この地名の並びで考えると、東京や神奈川に対応するのは北海道でなく北海になるべきと思いますが、そうなっていない理由は元々「北海道」で一つの地名だからなんだそうです。ネットで調べると色々書かれていますが、どうせなら北海道県にしてもらった方が統一感有って良かったのにな、と思いました。

さて本題。こちらも色々な本で引用されることの多い作品で、かねてから読もうと思っていた「蠅の王」(ウィリアム・ゴールディング著 集英社)をコロナ不眠症で夜中にどうにも眼が冴えて眠れないので、その機会を捉えて読んでみました。

ストーリーのイメージは映画の「The fly」だったので、全く結び付かない珊瑚礁の無人島から始まる穏やかな物語にやや当惑気味でしたが、読み進めて行くうちに、こんな夜中に何というディープな作品に取り掛かってしまったのかと後悔するはめになりました。

同じ無人島サバイバルをモチーフとしていても、小学生の頃に読んだ「十五少年漂流記」(ジューヌ・ヴェルヌ著)のような少年漫画的なプロットのハピエン話では全くなく、恐ろしいことに誰もが心の内に飼っている〈内なる悪〉を残酷に描き出す内容で、コロナストレスで世界の皆さんが正気を失ってしまわぬことを願わずにはいられなくなりました。

理性の象徴である〈ほら貝〉の権威に支えられた規律の存在する社会では悪は無邪気さの範疇で片付けられる程度しか顔を出しませんが、一旦これが何らかのきっかけで暴走し始めると(この物語では化け物の妄想による極度のストレスに起因)、動物的本能と結びついた悪は全く歯止めが効かず、非合理的な破滅に向かって突き進む行動に少年たちを駆り立てることになります。

その〈内なる悪〉を聖書中の悪魔になぞらえて象徴しているのが、木の棒に串刺しにされた豚の生首に蠅がたかって、不気味な雰囲気を放つ〈蠅の王〉たる存在なのですが、具体的な作品名までは思い出せないものの、このモチーフは認識していたよりもっとたくさんの作品中で使われているものだと、その気味悪さの追体験で改めて感じました。

蛮族となり果てた少年たちが、善良や知性を象徴する仲間たちを次々と葬り去るさまは、人間が悪魔と名付けて抑制しようと努力し続けねばならない生得の動物性の恐ろしさをまざまざと見せつけます。いやー怖かった。

もう一作品は、このコロナ危機への対処法のヒントになるかなと思いジャレド・ダイアモンド大先生の「危機と人類」(上巻・下巻 日本経済新聞出版)を読んでみました。

内容としては、個人と国家の類似性に着目し、個人的危機に対処する危機療法における12のポイントを国家的危機の分析にも使えるよう修正した上で、これを用いてドイツ、フィンランド、チリ、オーストラリア、インドネシア、日本、アメリカの過去及び現在の危機について検証する、というもので、思ったほどコロナ問題解決の役には立たない感じでした(笑)。

ただ、大先生の名誉のために申し上げますが、勿論、歴史からの学びという観点では十分満足できる内容でした。フィンランドが地政学的要因を重視して、時にはロシア(旧ソ連)に迎合的と海外から批判される「フィンランド化」政策を敢て採用した柔軟性や、オーストラリアが泣く泣く英連邦から離脱して白豪主義を捨て去ったナショナル・アイデンディティーの大転換など知らなかった点が多く大変感銘を受けました。フィンランドは民主主義国なのに、対ソ政策の連続性を重視して大統領の任期を超法規的にどんどん延長するという荒業も使っていてその徹底ぶりは凄いです。

その他にも、日本に敬意を表しつつも、移民の受け入れの招聘や隣国への心からの謝罪を通じた課題解決を柔らかく提唱したり、米国における政治的妥協の欠如とそれに伴う分断、あるいはそれを助長するゲリマンダーと選挙人登録制度への批判を展開するなど大先生らしさがそこここに出ており、83歳でもまだまだ健在な感じです。

また、折角読んだので、危機療法の12の視点と金次郎の自己分析・コメントを紹介します。コロナに起因するストレスや不安の解消にちょっとでも参考になれば嬉しいです。

【個人的危機を考える12の視点】

1 危機に陥っていると認めること:(金次郎)最初はちょっとコロナを軽視していましたが、さすがに今は確り事態の深刻さを認識しております。

2 自分の責任の受容:(金次郎)自分と家族の安全を守り、感染拡大に繋がる行動を避ける責任を改めて認識。

3 囲いを作り、解決が必要な個人的問題を明確にすること:(金次郎)これは「選択的変化」という文脈で語られていたので、とりあえず2に集中して対処することに。

4 他の人やグループからの物心両面での支援:(金次郎)困ったら友人や会社の仲間に迷わずすぐに頼ります(笑)。他人にも頼られる存在にならねばなりませんね、頑張らねば。

5 他の人々を問題解決の手本にすること:(金次郎)もう少し情報を収集してコロナ問題に対するbest practiceを勉強するようにします。

6 自我の強さ:(金次郎)適度な運動を継続して、先ずは健全な身体を維持して精神を安定させるべく心掛けます。

7 公正な自己評価:(金次郎)自分がこの問題にきちんと対応できているか、内省の時間が重要と再認識しました。

8 過去の危機体験:(金次郎)シンガポールのSARSの時も、大震災の時もややのほほんとしていたので、この部分は経験不足否めません。今回の危機を将来の糧にします。

9 忍耐力:(金次郎)これも普通ですね。残念。

10 性格の柔軟性:(金次郎)年を取ると、これはかなり衰える能力なので注意します。否定から入らないようにしよう。

11 個人の基本的価値観:(金次郎)改めて、周囲にvalueを提供し続ける、という目標を思い出しました。頑張ります。

12 個人的な制約が無いこと:(金次郎)家族は勿論ですが、これを読んで頂いている友人の皆さんからもいつもサポート頂いており大丈夫そうです。ありがとうございます。

【参考:国家的危機を考える12の視点】

1 自国が危機にあるという世論の合意

2 行動を起こすことへの国家としての責任の受容

3 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること

4 他の国々からの物質的支援と経済的支援

5 他の国々を問題解決の手本にすること

6 ナショナル・アイデンティティ

7 公正な自国評価

8 国家的危機を経験した歴史

9 国家的失敗への対処

10 状況に応じた国としての柔軟性

11 国家の基本的価値観

12 地政学的制約がないこと

テレワークであまりしゃべらない、カラオケ行けないので歌わない、飲み会無いので笑わない、というのはストレス並びに体調コントロール上非常に良くない状態のようです。ということで、妻と共にアマプラでサンドイッチマンのコントを見ましたが爆笑でした。さすがです。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「「蠅の王」(ウィリアム・ゴールディング著)は「ハエ男の恐怖」とは違った!、そして「危機と人類」(ジャレド・ダイアモンド著)を読了」への2件のフィードバック

  1. ときどき読んでます。楽しいです。今でも地域割に「道」が使われているのは、韓国ですが、「北海道」命名は、明治維新直後なので、韓国かぶれの日本人も、在日と呼ばれる人達もいない時代。明治政府が制度設計の拠り所として律令国家時代の五機七道)に、加えるべき第八道として命名。1882年に開拓使を廃止する際に、今後の行政単位として3県(函館県、札幌県、根室県)を置いたものの、中央政府からすれば、「まとめて連絡してくれ」、「3県で調整してくれ」という事態になって、4年で廃止され現在に至るようですね。「蠅の王」読みます。英文で読んでるのですか?

    1. コメントありがとうございます。そういうことであれば、都道府県では都の次にランクされてますし、「道」をリスペクトして「北海」と道を分けて、もう少し「北海」に活躍してもらうのが良いですね。実は知らないだけで地元の人は普通に「私の生まれは北海です。」みたいに使われているのかもしれませんが。勿論翻訳版で読んでおります。英語で読んでいると月に30冊が3冊になってしまうので(苦笑)。

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