海外文学について外国人と語るのは難しい

外国人と読書の話をしていてとても困ることは、「どんな本読んだの?」と聞かれて、海外有名文学作品のタイトルが直ぐに英語で浮かばないことです。映画のタイトルもそうですが、結構意訳されていることが多く、直訳して伝わらないと、内容を英語で説明するはめになり、これにはかなり手こずらされます。

前回のブログで書いた(→引きこもりのGWに「風と共に去りぬ」を読了)「風と共に去りぬ」は「Gone with the wind」なので比較的知らなくても行けそうですが、間違って「Left with wind」みたいになるとなんとなく〈風の左翼〉みたいになって意味不明となってしまうリスク有ります。

ちょうど読了して近日中に感想を上げる予定の「すばらしい新世界」(オルダス・ハクスレー著 講談社)はSFの超名作なのですが、「Wonderful new world」ではなく「Brave new world」ですし、チャールズ・ディケンズの「大いなる遺産」も「Great inheritance」ではなく「Great expectations」で、エミリー・ブロンテの「嵐が丘」に至ってはもはや訳もできませんが「Wuthering heights」が正式タイトルです(苦笑)。

原題はロシア語ですがドストエフスキーの後期五大長編のうち「Crime and punishment」は分かりますが、「白痴」は「The idiot」、「悪霊」は「Demons」と微妙に会話中には直訳で正解に辿り着けなさそうなタイトルが続きます。

近いところでは、先日読んだ「モスクワの伯爵」はそもそも〈伯爵〉の単語を知りませんが原題は「A gentleman in Moscow」でこれも微妙に違います(ちなみに伯爵はEarl)。

これらをちゃんと毎回調べておけば良いものを、横着してしまうために、外国人との会話ではいつもワンパターンの「戦争と平和=War and peace」(レフ・トルストイ著)、「高慢と偏見=Pride and prejudice」(ジェーン・オースティン著)、「動物農場=Animal farm」、「1984年=1984」(いずれもジョージ・オーウェル著)などなどの安易直訳タイトル本の話題ばかりとなり芸が有りません。英語原文で読むのは厳しいので、せめてタイトルぐらいは把握しておくよう頑張ります。

さて今日はどの本の感想を書こうかなと悩みましたが、新たな試みとして質より量でこのところまとめ読みした作品を作家別に羅列してみようと思います。

◆誉田哲也

「背中の蜘蛛」(双葉社)

直木賞候補になったので読んでみたところ、なかなかに重厚な警察小説で、どうなっているのかよく分からない警察内部の事情がリアルっぽく描かれていて面白い、と思ったら、何度も映像化された「ストロベリーナイト」シリーズを書いた作家さんと知り納得しました。同ドラマを先に見てしまっていたので、主役の姫川玲子は竹内結子、ガンテツは武田鉄矢、日下主任は遠藤憲一のイメージから離れられませんでしたが、小説版を読んでみて素晴らしい配役と改めて納得しました。以下既刊全作品です。

「ストロベリーナイト」(光文社)

ノンキャリにして若き女警部補である姫川のキャラが警察組織の中で異彩を放つ様子が鮮烈で、今読んでも新しい。シリーズ第一作らしいグロさが生々しく勢いを感じます。

「ソウルケイジ」(光文社)

入り組んだプロットで、ミステリーとして存分に楽しめます。このシリーズを特徴付ける、悲しき犯人像、という方向性が定まった作品と言えますね。

「シンメトリー」(光文社)

短編集ですが侮れません。姫川の活躍に浸れる作品。

「インビジブルレイン」(光文社)

公私共に姫川の転機となる内容で、彼女の葛藤が物語に深みを与えています。ミステリーとしても内容充実で、最後の場面でなるほどと驚かされる展開となります。

「感染遊戯」(光文社)

本来あまり好きではないサイドストーリー的な短編集ですが、ガンテツもいい味を出していて意外といけました。

「ブルーマーダー」(光文社)

姫川は所轄に移動させられている本作。なかなかハードな内容ですが、凶悪な犯人にも惹きつけられる魅力が有る本シリーズの特徴が強く印象に残る作品です。

「インデックス」(光文社)

過去の回想的な短編集でシリーズものの醍醐味ですね。いよいよ所轄から本庁へ返り咲きです。

「ノーマンズランド」(光文社)

悲しい純愛の物語。シリーズ8作目でもまだまだマンネリ感無しで最後まで読ませます。

◆原田ひ香

「アイビー・ハウス」(講談社)

夫婦二組の理想的と思われたシェアハウスでの生活が、ささいなほころびと疑心暗鬼の重なりで少しずつバランスを失って行く様子をひたひたと描きます。こういうのが幸せ、と与えられたものはやはりホンモノではないですね。

「おっぱいマンション改修争議」(新潮社)

天才建築家の代表作であり誰もが憧れた通称〈おっぱいマンション〉に関わる人々の嘘と思惑を不気味に描く怪作です。〈見栄〉の時代の終わりのような現代から30年ぐらい前を眺め直すと面白い。

「DRY」(光文社)

こちらもたいへん不気味な作品ですが、原田先生の王道モチーフである〈女の生きる道〉が個性の強すぎる登場人物の、真っ直ぐに曲がった姿を通して描かれます。気持ち悪い部分はぜひ飛ばして下さい(笑)。

「彼女の家計簿」(光文社)

それぞれにずっしりと重いものを抱えた女性たちが、大小様々な煩わしさに耐え悩みながら、必死に〈生きる道〉を探すストーリーで、とにかく男が弱く、浅はかな生き物である点が悲しいです。

◆千早茜

「さんかく」(祥伝社)

人間関係に悩み、自分にとって大切なものが何かが見えなくなった三人の男女のお話です。うち二人が京都の町屋で奇妙に同居するのですが、季節の移ろいと美味しい食事を意識する暮らしの中で、心の曇りが次第に晴れ、自らの進むべき道を見出して行く、前向きな気分と空腹を感じる作品です。

「透明な夜の香り」(集英社)

その鋭敏過ぎる感覚ゆえに深い悩みを抱える天才調香師と、ある出来事のせいで生まれた心の闇を振り払えずに苦しむ女性が、お互いの存在に影響され少しずつ呪縛から解放されてゆくお話です。こちらもナチュラルな食材とハーブを使った料理に癒される作品で、香りフェチを自認する金次郎の自信を粉砕する超人的な嗅覚にもう笑えます。「ある人殺しの物語 香水」(パトリック・ジュースキント著 文芸春秋)のジャン・バティスト・グルヌイをも凌駕しております。

「クローゼット」(新潮社)

ちょっと変わったお洋服産業を舞台にしたカジュアルなお仕事成長物語です。千早先生の美的センスが好きなこともあり、イメージしづらい業種ではあるものの、意外と面白く読めました。

「男ともだち」(文芸春秋)

永遠のテーマ男女友情成立是非ものです(笑)。京都が舞台の小説はそれだけで雰囲気が出るのでずるいですね。第一回新井賞作品です。

 

あり得ないほどに髪の毛がボサボサとなり、オンライン会議では常に音声だけの参加となってしまって、もはや散髪が不要不急とは言えない状態となっております。異動先の会議では画像をオンにして新しい仲間に覚えてもらえるよう、そろそろE美容室に伺おうと思います。

 

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA