凪良ゆう先生は「滅びの前のシャングリラ」で二年連続の本屋大賞なるか?

コロナで会食もさほど無く、読書以外に特段やることもないのでオンライン英会話のレッスンをよく受けていますが、イディオムは本当に意味不明なものが多くて困ります。自分が英語が苦手なだけかもしれませんが(苦笑)。例えば、to steal someone’s thunderは誰かの雷を盗むではなく、他人を出し抜く・功績を横取りする、という意味だそうで、完全に鳩豆状態でした。同じく呆然としたのがmodus operandi(MO)で、この意味は仕事のやり方・運用方法・(犯人の)手口、だそうです。。。

さて気を取り直して(笑)、前回の続きです。10年前とはいえ、我々も一応大人なので、一度の充電で走行できる距離と福岡―長崎間の距離は事前に確認しており、長崎市内で観光や買い物をしている間に充電すれば福岡空港まで余裕で戻れる計算でした。EVは給油がいらないから楽ですね、とか喋りつつ、EVならではの加速を試したりパワーウィンドーを上げ下げしたりしながら楽しくドライブして30分程度経過した時だったでしょうか、突然後輩が不審そうにつぶやきました。

「金次郎さん、電池残量メーターがおかしいです。」

後輩が新車同然のEVをレンタカーできたと自慢していたこともあり、故障ではないだろうとは思いましたが、確かにメーターは走行時間を考えると有り得ない50%を示しており、走行中にもみるみる減っていきます。慌てふためいてとりあえず減速してみたところメーターの動きが安定しましたので、どうやら時速60キロ以上出してしまうと異常に充電が減ってしまうようです。これも新しい技術を取り入れる際につきものの試行錯誤と思い直し、高速道路上で迷惑なカメとなりのろのろ走行でひたすら抜き去られる運転を甘んじて受け入れることに。爽快な気分が一転車内がかなりどんよりした雰囲気になってきたので、気分を変えようと窓を開けたりラジオをつけてみたりしたところ、後輩の悲し気なつぶやき再び。

「金次郎さん、充電が減るので窓とかラジオとか電機関係には触らないで下さい。」

ここから暫く、ノロノロ、窓無し、エアコン無し、ラジオも無しで無音かつ無言という忍耐の時間が30分程度続き、二人ともかなり敗戦処理的なローテンションになり始めた頃、けたたましく鳴り響くアラーム音と共にナビが無感情な声で告げました。

「直ぐに充電して下さい。直ぐに充電して下さい。間もなく運転できなくなります。」

まだ佐賀県に入ったばかりで先は長く一瞬パニックになりましたが、午前中の早い時間に出発したことが幸いし、時間に余裕が有ったので、一旦高速を下りて充電ポイントを探すことにしました。早速優れものと噂のナビシステムで最寄りの充電ポイントを選び、ナビの指示通りに下道を進みます。消し方の分からないアラーム音とアナウンスを響かせつつ、こんな場所に充電ポイントが本当に有るのかと不安にさせる山道を小一時間程度走った先に見つけたのは、普通の日産ディーラーの営業所。恐る恐る充電させてくれと頼んでみたところ、店員さんは怪訝な表情。その店員さんが投げやりに指さした駐車場の片隅に有ったのは、なんと普通に家庭でスマホを充電するあのコンセント!まさかと思いつつ、「フル充電までどの程度かかりますか?」と聞いたところ、驚愕の「うーん、明日の朝ぐらいかな。」という返答。。。どうなるんだ、金次郎とその後輩?!更に続きます。

今週は、本屋大賞候補作へのノミネートが有力な作品を何冊か読みました。先ずは「滅びの前のシャングリラ」(凪良ゆう著 中央公論新社)で、早くも「流浪の月」に続いて二年連続大賞受賞も噂される人気作です。一か月後に地球が滅亡すると知らされた時、人々は何を考え、これまでの人生をどう振り返って、残された最後の日々を誰と如何にして過ごすのか、という重いテーマを、深刻になり過ぎないぎりぎりのタッチの巧みな文章さばきと心を軽くしてくれるユーモアを駆使して最後まで全く投げ出す気を起こさせずに読ませてしまう筆力はさすがです。一か月という短過ぎず長過ぎずの期限設定の絶妙さが、登場人物のみならず読者にもきちんと考える時間を与えているので、物語に引き込まれた読者もいつの間にか自分にとって本当に大切なものが何かを考えさせられていて、その大切なものを思って生きていくという希望につながる、逆説的絶望のお話になっています。人間が持つ生得の倫理観を重視するマルクス・ガブリエルの新実存の考え方に通じる部分も有り、最近ちょうど関連本を読んだところだったので興味深かったです。外すと恥ずかしいですが、金次郎は上位10作品へのノミネートを予想します。

「デルタの羊」(塩田武士著 KADOKAWA)は「罪の声」や「騙し絵の牙」などの人気作を連発している塩田先生が、鬼滅また鬼滅のこのご時世にジャパニーズアニメの制作あるいは製作事情と課題をオタク目線で描いた秀作です。アニメ製作の方は符丁として〈コロモ〉と呼ぶことを初めて知りました。アニメビジネスの基本構造、中国マネーにより翻弄される業界事情、配信vs円盤の構図、紙かCGか、ゲームとのアニメーターの取り合いなど知らなかった世界が次々と語られ新鮮です。勿論、夢、挫折、アニメへの愛と想い、ときちんと感動ストーリーも盛り込まれているので、アニメ好きでない非オタクの方でも充分カタルシスを得られること請け合いのおすすめ作品です。ノミネート確率は50%ぐらいでしょうか。

「雲を紡ぐ」(伊吹有喜著 文芸春秋)は、不登校、家族のすれ違い、という普遍課題を、祖父母との関り&自然に包摂されることでの再生、で解決するという「ハッピーバースデー」、「西の魔女が死んだ」などの名作でお馴染みの王道プロットの作品であり、そこにこれでもかと毛織物という伝統工芸職人のものづくりへの熱い思いというスパイスが加わる構成で、泣くなというのが無理筋な感動必至の仕上がりとなっています。物語の主要な舞台は岩手なのですが、ご当地の宮沢賢治の文章が毛織物のルーツであるイギリスの装飾絵本と共に描かれ、何とも言えない幻想的な雰囲気が醸し出されて、〈美しいウール〉の風合いが清らかな自然の中に立ち上がってくるとても視覚的な作品だと思います。直木賞候補にふさわしい秀作ですが、主人公の両親の夫婦関係など、ややテーマを盛り過ぎた感は有り、金次郎は直木賞作の「少年と犬」よりは好きでしたが、受賞にあと一歩というのも分かる気がします。ノミネート確率は30%というところでしょうか。

我が家のプリンターが調子悪くなり印刷した際に線が入ってしまうので、年賀状は丑ではなくシマウマになってしまうかも。。。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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