瀬尾先生の新作長編「夜明けのすべて」と犬はやはり泣ける伊吹先生の「犬がいた季節」を読む

以前のブログでカタカナ表記がおかしいと書いた途端に民主党候補指名レースから離脱してしまったので薄く責任を感じていたピート・ブティジェッジさんですが、バイデン新政権の運輸相となって温暖化ガス排出削減の推進役になられるようです。低排出と言えば、そうEVです(笑)。前回はEVの充電が切れそうになり、ナビに従ってようやくたどりついた充電ポイントで家庭用コンセントを提示され暗澹たる気分になったところまで書きました。既にその段階でPONR(Point of no return=引き返す方が遠くなるポイント、ケミストリーではない)を越えつつあった我々も簡単にOK, thank youと言うわけにもいかず、何か手段が思いつかないかと日産ディーラーの店員さんに食い下がりました。暫く沈思黙考した店員さんは、環境意識が高そうには見えない割に無謀なEVドライブを繰り広げるおっさん二人組を憐れんでくれたのか、「うろ覚えやけど、そっちの方にくさ、暫く走ったところにたい、コンビニがあろうが、そこにくさ、充電ポイントが有ったっちゃなかったろうか。」、と若干方言がきつ過ぎる記憶の改竄がされている気はしますが、頼りないもののなんとか首の皮一枚つながるアドバイスをくれたのでした。非常に心もとなくはありましたが、この藁に縋るしか選択肢が無いおっさんコンビは再び無言で腹ペコになりつつ店員さんの指し示す方角にリーフを走らせ、30分ほどで目指すファミマを遂に発見。しかし、こんなカエルの大合唱が響く田んぼの真ん中に最新テクノロジーのEV充電ポイントなど有る筈も無いと絶望しかけたその瞬間、興奮した後輩が日本語の苦手な帰国子女のような指示代名詞だらけの声を上げました。

「金次郎さん、あのあそこの駐車場の端っこに有るあれ、まさかあれのあれじゃないでしょうか!」

そうなんです。なんと奇跡的に有ったのです。デカいコンセントと太い配線、いかにも高圧電流が流れていそうなごついフォルム、まさにそれは地獄に仏の高速充電ポイントそのものでした。頭に浮かんだ、誰がこんなところの充電ポイント使うんだよ、という疑問には、すかさず俺たちでしょ!、と自問自答し、500円/時(1時間で80%まで急速充電)と記載の有る投入口にコインを入れ、近くの喫茶店でちゃんぽんでも皿うどんでもない、長崎感の全く無い(と言うかまだ佐賀ですが)、カレーライスを食べて腹ごしらえをすることに。充電が終わったのが既に午後1時ぐらいだったかと思いますが、そこから相変わらずゆっくりゆっくり無言&無音で長崎に向かい、ようやく夕方頃到着したものの、次に見つけた充電ポイントは観光地からやや離れたオフィス街的なエリアの日産ショールーム。大きめのショールームのちゃんとした店員さんは驚いた様子で、「これ(リーフ)で福岡から来られたお客さんは初めてやね。え?これからまた帰られるとですか。それは往生しますねー。」、と飽きれ顔。帰りの飛行機の時間を考えると、観光をする猶予は全く無く、仕方が無いので名物松翁軒のカステラだけを速攻で購入し、このドライブは何だったのかとの疑問を必死で封印して、充電完了の瞬間とんぼ帰りで帰路に着くこととなりました。

それでもまだ、これでハッピーエンドとなれば良かったのですが、そこからが更に地獄。その地獄とは・・・「夜と雨」!(ビクトール・フランクルの名作「夜と霧」ふうw)皆さん覚えておられるかと思いますが、EVで使ってはいけないものは何だったでしょうか?はい、そうです、急加速、ラジオ、パワーウィンドウでしたね。夜に必要なものは何でしょう?はい、ヘッドライトですね。雨の時に欠かせないものは何でしょう?はい、ワイパーですね。そう、我々は雨の降りしきる夜(正確には薄暮)の高速を無灯火かつノーワイパーで福岡空港まで戻るという命知らずのドライブを余儀なくされ、非常に怖い思いをして肝を冷やす体験をしたのでした。何はともあれ無事に戻れ飛行機にも乗れたので、後輩のナイスドライブに感謝でしたが、EVは絶対に普及しないと心の底から思った日帰り旅行でした。しょーもない話を長々とお読み頂きありがとうございました。

本の紹介も一応しておきますね(笑)。「夜明けのすべて」(瀬尾まいこ著 水鈴社)は、「そして、バトンは渡された」で本屋大賞受賞後久々の長編小説ということで楽しみに読みました。持病を抱え人付き合いが思うに任せない男女が、最初はぶつかり合うものの、病気という共通の視点を通じて〈共感〉し合うことで少しずつお互いを理解し、不器用ながらも相手を思いやる気持ちを育んでいくという前向きストーリーです。全く好きでなかった相手に、好きになれる可能性を見出せる〈共感〉のパワーを改めて感じる作品ですが、非常にいいところで終わってしまうので、読了直後は正直、もう終わっちゃうの、とやや不完全燃焼感が有りました。ところが、少し時間が経つと、美紗と山添のこれからが50ページ分ぐらい次々と頭に浮かんできて、これが世に言うあの余韻というものか、と読書道を一歩進めたと感じる一冊でした。

「犬がいた季節」(伊吹有喜著 双葉社)はある高校で飼われるようになった犬のコーシローに関わった生徒や教師のほろ苦くて泣ける人生のひとコマを丁寧にすくい取った連作短編の秀作です。とにかく、50代目前の金次郎の心に刺さると言うか、青春ノスタルジーを刺激する、中年のための青春小説で非常に共感できました。人間より早く歳を取る犬のコーシローの目線が我々の過去と今そして未来を映しているところがまた良し。コーシローの目線で描かれる部分は、言葉が交わせない故に〈気持ちは分かるのに届かない〉という、なんとなく上の世代と下の世代の関係のアナロジーにも感じられて、そこが中年の心を動かす要因かも、と思ったりもした一冊でした。

「2030年アパレルの未来:日本企業が半分になる日」(福田稔著 東洋経済新報社)は、変動の激しいアパレル産業について詳説してあり、consumer関連ビジネスに弱いうちの会社社員の大半がきちんと分かっていない気がするB2C、C2C、D2C、O2O等のコンセプトやデータ及びAIの具体的活用法等を、実態をイメージしながら理解できるのでなかなか勉強になります。また、衰退が顕著な日本のファッション業界について、情報の非対称性で収益を上げてきた、閉鎖性が強い、ITリテラシーが低い、等の特徴が挙げられており、業界は違えどかなり身につまされました。今後2030年にはミレニアムとZ世代が生産人口の6割を占めるようになる中、企業のブランディングも重要になると思われ、まさにブランドビジネスであるファッションを勉強してみて新たな視座を得る、というのはなかなか有用ではないかと思います。明確に業界軸でなく提供価値軸で考える等の発想は今後のビジネス開発に向け非常に参考になる考え方だと感じました。

ようやくEV珍道中記が終わったので、来週は紹介企画やります!E美容師に紹介する本も選ばねば。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA