期待通り面白かった染井為人先生の「正体」を紹介!

最近やたらと環境意識が高まっており、2030年代にはガソリン車も販売されなくなるなど時代は大きく変わっているなと感じます。これからはハイブリッド車や電気自動車(EV)の時代になるのだと思いますが、先日ふと思い出した10年前にEVに乗った時のことを書きたいと思います。大きな会議に参加するために福岡に出張した際に、日程的に土曜日の昼間が空いてしまい、一つ下の後輩にレンタカーを運転させ長崎まで行ってカステラを買おうとの話になりました。カッコいい車を借りるよう後輩にお願いしていたところ、後輩が借りてきたのはまだ出たばかりの日産リーフ。当時は珍しい100%バッテリーで動くEVで、確かに運転席もパソコンみたいというか、近未来的でカッコよく、でかしたと後輩を褒めていざ出発。やや曇り空なのは今イチでしたが、走行中の音は静かだし、始動からの加速はすごいし、ナビシステムも当時としてはかなり画期的な感じで、最初のうちは非常にノリノリだったのをよく覚えています。長崎ではちゃんぽんにしましょう、いや皿うどんだろう、などと軽口を飛ばしつつ高速も軽快に飛ばしていた頃の我々には、その後この旅に恐ろしい展開が待ち受けていることなど知る由も有りませんでした。。。続きは次回(笑)。

「正体」(染井為人著 光文社)は、注目作家である染井先生の最新刊で、逃走を続ける脱走少年死刑囚と、そうとは知らずに彼と関わる人々の交流を通じ、人間の持つ多面性や他人を信じることの難しさを問いかけるサスペンス小説です。読者は最後の最後まで日本中を震撼させた殺人鬼とされる主人公の〈正体〉を見極めるべく登場人物たちと共に悩むことになります。状況や相手によって態度をあっけなく変える人間の弱さや醜さもさることながら、いつどんなはずみでネガティブなレッテルを貼られるかわからない危険だらけの現代社会で、信頼されるに足る人間として生きて行くことの大切さについて考えさせられる作品でもあります。様々な属性、評判やレッテルに惑わされることなく、相手の〈正体〉を感じ取れる眼力を身に着けたいところですが、かなりハードルは高いと言わざるを得ませんね(苦笑)。過去三作同様(紹介はこちら)充分面白く読めたのでおすすめ作品であることは間違い無いものの、もう一つのテーマである死生観については、やや踏み込みが甘かった印象にて、次回作での更なる飛躍に期待です。

 

「軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い」(松本創著 東洋経済新報社)のメインテーマは、この事故で妻と妹を同時に亡くした一人の遺族による大企業JR西日本との闘いの軌跡で、遺族感情を押さえて、徹底的な原因究明と実効性のある再発防止策の提示を求め、最終的には大企業という山を動かした彼の信念と気迫に畏敬の念すら感じる内容です。〈安全〉に対するJR西日本側の意識の低さはお粗末極まりないですし抜本的な改善に向けた対策にぜひ取り組んでもらいたいところですが、一方で、ヒューマンエラーを〈原因〉と捉えて、懲罰によって再発を防ごうとする発想は、我々のビジネスにおける組織マネジメントでも陥りがちな罠なので、戒めなければと感じました。すなわち、ヒューマンエラーや個々人の生産性の低下を意識の欠如や努力不足のみに帰するのではなく、組織のシステムが上手く機能していないことの〈結果〉として捉え、対症療法でなくルートコーズアナリシスによるシステム全体の再構築を通じてそれらの問題に対処する意識が重要ということかと思います。民営化の優等生として注目された結果、経済的メリットがより重視されるようになり、現場感覚から乖離し理念を失った計数管理の横行が、本来100%であるべき〈安全〉に関する基準を数字だけを観て90%でも上出来とするような風潮につながり、それが事故を招いたという連鎖は、許されない思い上がりであると同時に、どの組織にも起こり得る〈すぐそばに在る危機〉でもあり、大切にすべき理念を絶えず確認することの重要性を改めて認識いたしました。

さて、EVの話で始まったので何となくこの本で締め。「自動運転「戦場」ルポ」(冷泉彰彦著 朝日選書)ではAutonomous Vehicle(AV)開発の最新状況、完全自動運転車(レベル5)がもたらす社会、最近発生した米国での事故に対する社会の反応(AV普及への根強い不信)、技術的課題、整備すべき規制の枠組みなどの広範な内容を中立的かつ冷静な視点でまとめてあり、自分の頭の中に散らばっていた情報と合わせて整理するのにとても有用でした。安全を担保するために高精彩マップをリアルタイム(V2V、V2N)でupdateし続けなければならない点や、半自動運転(レベル3)普及時に、難易度の高い局面で経験の少ない人間ドライバーが運転を引き継がなければならないパラドックスなど興味深かったです。毎年の交通事故による死亡者数である130万人をどこまで減らすことができれば自動運転が評価され受け入れられるのか、なかなかの難問です。

 

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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