金次郎、過去18回の本屋大賞ノミネート作品全部読みプロジェクトを開始

興味の無い方には本当にどうでもいい話だと思いますが、本屋大賞2022のノミネート作品が発表されたことを受け、予想の参考とすべく過去18回のデータをじっくり調べてみました。過去18回で上位3作に最も多くランクインした出版社は新潮社で9作(16.7%)、これにKADOKAWAの7作(13.0%)、講談社の6作(11.1%)と続いております。ただ、子会社である光文社の2作も合わせると講談社系音羽グループが8作(14.8%)で2番目となります。出版社の規模としては講談社(従業員数920名、光文社は291名)、集英社(同764名)、小学館(同710名)が三強ですので講談社は順当と言えます。規模はそこまで大きくないですが歴史も古く文芸に強くて意外とエッジが立っている新潮社(同346名)、エンタメに強い印象のKADOKAWA(出版関連の従業員数は不明)もそれなりに妥当なところと感じます。新潮社のエッジ度合いは週刊新潮の記事のせいでよく訴訟になっていることからも分かりますね(笑)。ただ、この新潮社とKADOKAWAの2社が本屋大賞を席巻したのは2015年度までで、なんとその後の6回ではトップ3に全く食い込めておりません。読書家として大変不本意ながら、2015年以降この2社にいかなる出版戦略や編集方針の変更が有ったのか、あるいは何も変化が無くただ書店員さんに推されなくなっただけなのかについては調べられておらず、追々この謎は解明していきたいと思います。

この2社の本屋大賞レースでの低迷期において、そのポジションにどこかの出版社が上手く取って代わったのかというと必ずしもそういうわけでもなく、どちらかというと群雄割拠の様相を呈しておりますが、強いて挙げるなら、一流ブランドである講談社の3作に従業員数250名のポプラ社が同じく3作で拮抗しており健闘している構図が印象的です。元々ポプラ社は小学校の図書室で目にした名探偵ホームズシリーズ、かいけつゾロリ、機関車トーマス関連書籍、ズッコケ三人組シリーズなどに代表される児童書出版を主な活動領域としていましたが、近年は大人向けの小説にも進出し、こどもと、昔こどもだったすべての人のための「本」をつくる出版社、をモットーに大成功を収めています。この他にも創元推理文庫が有名でミステリーに強い東京創元社(同50名)、漫画(アクション)やエンタメ(週刊大衆)に強く社員の質が高いと評判の双葉社(同157名)なども最近の本屋大賞では上位に作品を送り出しています。大正デモクラシー時代に文壇をリードした中央公論で知られる中央公論社は1880年代創業の老舗でしたが、1990年代に経営不振から読売新聞本社グループの傘下に入り中央公論新社(同150名)として再スタートを切っており、近年本屋大賞でも上位に食い込むケースが増えております。さて、これら最近の傾向から本屋大賞2022の上位作品を予想すると、「残月記」(小田雅久仁著 双葉社)、「スモールワールズ」(一穂ミチ著 講談社)、「星を掬う」(町田その子著 中央公論新社)となりそうですが、そんなくだらない予想をしているとまた外して宿敵Mに負けることになるので改めて作品をしっかり吟味しようと思います。当たらずとも遠からずのような気がするところが微妙ですが(笑)。

本屋大賞つながりですが、最近思い立って過去のノミネート作品を全部読んでみるプロジェクトを勝手に始めてみました。先ずは第1回2004年度の第8位である「終戦のローレライ」(復位晴敏著 講談社 )です。上下巻合わせて1050ページの超大作で太平洋戦争終戦間近の日本において〈あるべき終戦の姿〉の実現に向けて画策する異端の海軍大佐浅倉の策謀に翻弄されながらも、国体ではなく国民一人一人の生命や矜持や思いを大切にする道を歩む戦利潜水艦伊507の乗組員たちの姿を描く、思わず激しく感情移入してしまうドラマチックな戦争小説です。

フランス艦として建造されたシュルクーフがその後ナチスドイツに拿捕され、超高性能索敵機能であるローレライ・システム導入の試験運用艦として全面的に改造されたものが極秘裏に日本海軍の手に渡り伊507となったわけですが、この艦の圧倒的なパフォーマンスと、絹見艦長の神がかり的な操艦術で米国海軍を翻弄する戦闘シーンは手に汗握る迫力です。また、主人公折笠と清永の友情や、彼らと癖の強い乗組員たちの心の通い合いもありがちな流れではあるもののやはり鉄板の感動シーンですし、戦争小説だけに少しずつ仲間が命を落としていく場面も涙を誘います。そして、もう一方の主要登場人物である謎のドイツ人兄妹が悲惨な過去を乗り越え乗組員たちとの心の距離を縮めていく様子にも、定型パターンの持つ無条件に心を動かす力を感じます(笑)。この作品は映画化もされており、折笠は妻夫木聡、パウラは香椎由宇となかなかイメージ通りの配役でちょっと観てみたくなりました。ちなみに著者の福井先生はガンダム作品のストーリー構成に深くかかわっておられるようで、最近は小説家というよりアニメーション作家として活躍されています。

続いて2004年度第2位の「クライマーズ・ハイ」(横山秀夫著 文藝春秋)です。1985年に発生した日航機墜落事故の担当デスクとなった群馬県の地方紙北関東新聞の記者である悠木が、記者魂と新聞ビジネスの現実の狭間で葛藤に次ぐ葛藤を繰り広げる人間ドラマとなっております。機体が通常ルートを外れて群馬県に墜落したこの事故を〈もらい事故〉として当事者意識を持たず、報道の本質でなく社内政治や利害だけを重視して紙面を作ろうとする上層部に忸怩たる思いを抱えた悠木が悩んだ末に放った「新聞紙でなく新聞を作りたい」という言葉に胸を打たれました。事故当時に命の重さと真摯に向き合った悠木は会社人としては不遇をかこつわけですが、現在の登山シーンで滑落しかけ、ザイル一本で支えられた自分の命を体感し、自らを貫いた過去を漸く肯定する場面は非常に感動的でした。恰好悪いし、人間もできていないし、失敗するし悩むけど、全身全霊で仕事に向き合うサラリーパーソンの生き様が少しだけ自分と重なって、もうひと踏ん張りしてみようと前向きな気持ちにさせてくれる内容で読んで良かったと思いました。

上質のミステリーなのであまり紹介は書きませんが2019年のミステリー界隈をざわつかせ、2020年度本屋大賞で第6位となった「Medium 霊媒探偵城塚翡翠」(相沢沙呼著 講談社)の続編である「Invert 城塚翡翠倒叙集」(同)は完璧と思われる犯罪計画を霊媒探偵がものの見事に軽々と解決していく姿を描く、裏の裏をかかれ続ける快感がたまらなく癖になる中編集です。しかし、翡翠の相手を油断させるためなのか地なのか最後までよく分からないてへぺろキャラは賛否両論分かれるところと思います(笑)。本作中に彼女の過去への伏線が張られまくっているので、その辺を描いた更なる続編にも期待大です。

最近仕事で長い文章を書くことが多く、ブログ執筆のモチベーションを上げるのがなかなか大変です。でも頑張ります!


読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA