金次郎、引き続き出版社の歴史に興味深々

東京では雪が積もる積もる詐欺に騙されまくった先週でしたが、大雪といえば、金次郎の父方の里は福岡県西部のそれなりの山の中で、正月に挨拶に行くとかなり積雪していて、金次郎の父親が雪道でハンドル操作を誤りスリップ&脱輪して大変なことになったのを思い出しました。しかし、山の中ということで子供時代はアクティビティーには事欠かず、家族で遊びに行くのが当時は本当に楽しみだった記憶が有ります。春はフキ、ワラビ、ゼンマイなどの山菜を取ったり、モウソウダケ、ハチク、マダケと順を追って出てくるそれぞれ味わいの違うタケノコを掘ったり、秋になると柿をもいだり栗を拾ったりと、とにかく山の幸が盛りだくさんでした。タケノコの掘り方が下手だと勿体ないと厳格な祖父に小言を言われるという恐怖は有ったものの、足の裏の感覚で出たばかりのモウソウダケを見つけ、周囲を鍬で掘ってタケノコの向きを見定め、反っている内側の根本に鍬を入れて掘るあの感覚が懐かしい。(ちなみにハチクとマダケは鍬ではなく鉈で切り取ります。)そこから包丁で切れ目を入れて外側の皮をむき、内側の薄皮を削り取って米のとぎ汁で湯がいてアクを取るのですが、掘りたてを食べるまでのあの一連のプロセスにはいつも非常にわくわくしておりました。

また、秋が旬の自然薯は、遠くから見て杉の木に絡んで黄色くなった葉っぱを見つけ、その根元を目指して山中に分け入り、ツルを探して歩き回り、見つけたところから真下に向けて1メートル程穴を掘ってようやく手に入るという大変な収穫作業なのですが、自然薯一本を折らずに掘りだせれば一人前という子供心をくすぐる父親の言葉に踊らされ、いたいけな金次郎少年はいつも一生懸命に掘っておりました。家に持ち帰って摺り下ろし、とろろにして食べるのですが、天然もののせいかかなり粘りが強い上に土臭く、しかも食べた後確実に口の周りが痒くなるので別にどうしても食べたいという代物ではなかったものの、大人の階段を上りたい盛りの少年にとっては毎年愉しみなイベントでした。その他にも冬の餅つきや、隣のゴルフ場から飛んでくるきれいなOBボールを拾い集めるなど思い出がたくさんある本家ですが、最近全くうかがえておらず気になっております。ちなみに、この一族は名前に権(ごん)の字を代々受け継いでおり(権助、権太郎など)、世が世なら金次郎も権次郎となるところでしたが父の代でこの字は使われなくなり本当に良かったです(笑)。一周回ってイケてる感じになるのかもしれませんが。

先週からの流れで、興味が湧いた出版社の歴史をもう少し勉強しようと手始めに「出版と権力 講談社と野間家の110年」(魚住昭著 講談社)を読んでみました。ギャンブル好きで人たらしのカリスマ創業者である野間清治が沖縄で教師をやったり、東大で書記をやったりしながら、最終的に講談社の前身となる大日本雄弁会を設立して雑誌出版にのめり込んでいく様子が細かく描かれていて非常に興味深く読めました。金次郎が大好きな焼き鳥今井が外苑前に移転する前は団子坂下に有ったのですが、大日本雄弁会も団子坂下だったとのことで一気に親近感倍増でした。哲学の岩波書店、文芸の新潮社の向こうを張って大衆雑誌の講談社として読み物の普及を目指し、雑誌と書籍の販売網を統一し、現在に続く取次制度の原型を作り上げた部分はビジネス的にも参考になる内容でした。修養の大切さを訴え、私設文部省を任じて出版物に道徳的な内容を盛り込んだり、戦時中は海軍に接近して顧問団を受け入れたりと、良くも悪くも清治の出版への思いと哲学が垣間見える内容となっておりました。現在は読売グループとなっている報知新聞も一時保有していたというのは意外でした。大立者の例にもれず、清治ののめり込みと拘りはかなり強かったようで、修養精神と関係していると思いますが、剣道社長と呼ばれるほどの剣道好きで、入れ込み度合いは自宅に道場を作り社員全員に剣道をやらせるほどだったとのこと(苦笑)。その甲斐有ってか、一人息子で二代目社長の恒は天才剣士として名高く剣道日本一にも輝いております。ちなみに、恒以上の腕前との評判であった甥の森寅雄は恒に試合でわざと負けさせられたとの噂に嫌気が差し、恒の早逝後も講談社後継候補に名前も挙がらなかったことから、なんと渡米してフェンシングのチャンピオンになったとのことで正に本物の天才剣士だなと思いました。その後講談社の社長職は清治の妻左衛(三代目)、恒の未亡人となった登喜子の婿養子で中興の祖と呼ばれた省一(四代目)と引き継がれ、清治とは血のつながりの無い省一の嫡孫である省伸が現在七代目として野間講談社のトップの座にあるようです。

その後、「出版の魂:新潮社をつくった男・佐藤義亮」(高橋秀晴著 牧野)にも手を出し、良心にもとる書籍は死んでも出さないとの義亮の信念に感服しつつ、改造社の仕掛けた大正末期の円本ブームに世界文学全集や新潮文庫で立ち向かったエピソードを興味深く読みました。前身の新声社を売却して心機一転しようとしたところ、その売却で得た資金を全て盗まれたというのは気の毒でしたが、無一文から復活した気概も凄いなと思いました。

「菊池寛と文藝春秋 こころの王国」(猪瀬直樹著 文藝春秋)では、創業者菊池寛の人となりや師夏目漱石への屈折した思い、後の芥川賞・直木賞に繋がる芥川龍之介や直木三十五との交流の様子に触れることができ、なかなかに楽しめましたし、当時の文壇の雰囲気や東京の風景の描写も新鮮で元都知事もなかなかやるなと思いました(笑)。しかし、何をやっても上手く行かなかった学生時代から一転、作家、実業家として大成功し、大映の社長にまでなった菊池寛のV字回復人生はなかなか見物です。

「本の世紀 岩波書店と出版の100年」(信濃毎日新聞著 東洋)では、とにかく思想や哲学に徹底的に拘る創業者岩波茂雄のキャラが印象的で、まだきちんと読んだことが無い「世界」(岩波書店)を読んでみなくてはという気分となりました。なんとなく馴染み深い神保町の交差点が思い浮かぶのもまた良し。

これら全てに共通して描かれているのは、1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災が当時の出版界に与えた凄まじいダメージです。東京を拠点としていた全国紙の新聞社はかなり活動が制限され、紙も印刷所も無くなった出版社もかなり倒産してしまったようです。ただそれでも大正期に急速に広まった人々の知的欲求は衰えず、何とか出版を継続できた会社は出すそばから本が飛ぶように売れたことで業績を急回復させ、現在に続く事業の基盤を創ったというのは歴史の皮肉ですね。

一応普通の小説の紹介もしておきます。「キネマの神様」(原田マハ著 文藝春秋)は昨年映画化されましたが、元々志村けんさんが出演を予定されていたこともあり、勝手にコメディと勘違いし油断して読み進めた結果、特に後半は恥ずかしいほど涙が止まらなくなり、最近読んだ100冊の中で確実に一番泣けた本となりました。色々有って不動産デベロッパーから映画関連の出版社に転職することとなった主人公円山歩のお仕事小説でも映画通だがギャンブル好きのダメ親父である故直との父娘家族愛小説でもあるのですが、何と言っても泣けるのは、映画マニア同士の全力バトルと映画愛を媒介として育まれる人と人との心の通った結びつきに感動するからだと思います。また、原田先生の映画や芸術に対する情熱と造詣の深さが作中の映画評に表れまくっており、モデルとなっているお父上の話も含め本当に書きたかったことが詰まっている作品であることも心を揺さぶられる一因なのだろうとも感じました。これは本当にお薦めなので是非ご一読下さい。

オリンピック関連のオフィシャルな記者会見の場で宇野昌磨選手が羽生選手のことを〈ゆずくん〉と呼んでいたのがどうしても許せない金次郎ですが、妻に言わせると昌磨くんはそれでも許される、とのことで何となくモヤモヤしております(笑)。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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