金次郎、新語shrinkflationについて考える

今年に入ってからずっと色々な商品で値上げがトレンドになっていて、妻がいつも買い物をしながら高い、高いと嘆いております。小麦粉価格上昇の影響からか、先日デリバリーをお願いしたCoCo壱番屋のカレーも5%程度値上がりしていて驚いたのですが、これまでかなりボリュームが有っておトク感十分で気に入っていたサラダの量が激減しているのに二度びっくりでした。トッピングもあまりに値上がったせいか大好きな旨過ぎるソーセージに加えて、価格を抑えたハーフソーセージといったメニューが登場するなど、お店側も対応に大変苦労されているなと感じました。これまたいつも注文するトッピングのナスは価格据え置きで一安心です。似たような感じで、スナック菓子などを中心に価格は据え置きで内容量を減らし実質的な値上げを行う動きも最近急速に増えていますが、これを英語では縮小するを意味するshrinkと価格上昇を意味するinflationを足してshrinkflationと呼ぶようです。Shrinkflationがいいか、inflationがいいか微妙なところではありますが、これまで何十年もデフレデフレと言われて育ってきた身としては、給料も上がらない中で値上げに気持ちがついていかないのでしばらくはshrinkflationの流行を希望したいと思います。中年としてはその方が食べ過ぎも防止できて一石二鳥と自分を納得させることにします。

さすがに本は内容を減らしてしまうと致命的ですので(笑)、とりあえず値上げの方向に向かうのでしょうが、単行本のコスト構造を見てみると、著者が印税として10%、書店が20%、取次が10%で残りの60%相当を出版社が受け取るというのが一般的なようです。とはいえ、出版社はこの60%の中から高給取りと言われる人件費は勿論、印刷・製本にかかる費用(含むデザイン・装丁)、取材費用、プロモーション費用を支払わねばならないなど、関係者のどなたもコストアップを吸収する余裕は無さそうで値上げ止む無しかとも思います。一方、そもそも我々の給料が上がらないことからも分かる通り、残念ながら人件費は上がりにくい傾向が有り、やむを得ず上がるのはそれ以外の取次の物流関連費用、出版社の物理的な製本に関わる費用(紙代など)ぐらいと想定され、全体の25%が2割上がって5%程度の値上げで済むのでは、と勝手に期待しております。ただ、こうして書きながら思いましたが、前向きな動きではないものの、やはりshrinkflationの流れとなると、新刊でも単行本でなく文庫本で出そう、ハードカバーでなくコストの安いソフトカバーで、というような縮こまった雰囲気が出版業全体に蔓延してしまいそうで、それはちょっと寂しいので、読書好きとしてはただでさえ不振な出版業界の未来のために値上がった本を買い支えてお金を回していく必要が有るぞと、歯を食いしばってそれ以外の場面では節約することを心に誓いました。

さて本の紹介です。「彼女のいない飛行機」(ミシェル・リュッシ著 集英社)は前回のブログで紹介したミシェル・リュッシ先生の代表作とされていますが、先に読んだ2作がかなり面白かったのでそれ以上に評価されている作品とはどんなものかと気になり過ぎて連続して読むことにしました。悲惨な18年前の航空機墜落事故でただ一人生き残った乳児はお金持ちの血筋のリズ・ローズか、それとも貧しい家に生まれたエミリーか、という大きな謎を中心に物語は展開していきます。また、18年後の現在に、ずっとこの身元調査を追いかけ続けてきた私立探偵のグラン=デュックが真相に辿り着くわけですが、どうやって謎を解明したかについても終盤までずっと明かされない懸念事項として残り続けるので、気になってどんどん先を読まされてしまいます。その他にも、エミリーの兄で彼女を愛してしまい妹であって欲しいのかそうでないのかに悩むマルク(貧乏)、リズ・ローズの姉でこの事故をきっかけに精神を病んでしまいかなり危ない人物として成長してしまったマルヴィナ(金持ち)、の両名のストレートでないこじらせまくっている愛情の発露がなかなかに人間臭くて面白く、もう一方の読みどころとなっています。結末では、なるほどそういうことか!とすっきり納得できる終わり方でご満足いただけると思いますので、ぜひご一読されることををお薦めします。

「包帯クラブ」(天童荒太著 筑摩書房)は、北関東のとある町で自分たちも心に傷を抱えて悩む高校生たちが、誰かの心の痛みのためにできることは無いかと、様々なトラウマに関連する場所に包帯を巻きつける活動を始めるお話です。実際にしてあげられることはそんなに無いかもしれないけどあなたの心の傷には気づいているよ、というメッセージを発信する包帯クラブの活動は賛否両論を巻き起こしますが、そんな中でもメンバーたちが他人の傷に向き合うことを通じ自分の心の奥の複雑に絡まりあったしこりを少しずつ相対化し理解して解きほぐしていく中で、メンバー同士ぶつかり合いながらもそれぞれが成長していく姿を描いた青春王道ストーリーとなっています。自己満足と分かりつつも、泥水を飲んだりテントの中で爆竹を爆発させたりして、少しでも貧困や戦場の実態を体感し理解しようとするおかしな男子ディノのバカだけどまっすぐな姿に、わらこと主人公笑子の心が動かされる様子がなかなか丁寧に安易なラブストーリー的でなく描かれているところが良いと思います。本作は映画化もされ続編も出ている人気作ですが、天童先生の印象がちょっと変わる作品でした。

本屋大賞ノミネート作品全部読みプロジェクトです。2005年度の第5位である「チルドレン」(伊坂幸太郎著 講談社)ではとにかく何よりも独善的で屁理屈屋なのに何故か好ましいハチャメチャ男の陣内の言動が圧倒的に面白くそれだけで満足できる内容です。この陣内を中心に、過去と現在を行きつ戻りつしながら描かれる5作の短編が一つの長編小説のように読める凝った仕上がりになっていますが、様々な場面で発せられる嘘がそれに対してのリアクションと合わせ物語のポイントで描き込まれている点が非常に印象的でした。

「チグリジアの雨」(小林由香著 角川春樹事務所)は金次郎が注目している小林先生の作品です。いじめのターゲットとなり、ある事情から家族にも相談できず遂に自死を決意する主人公の高校生航基でしたが、期せずして何を考えているか分からない同級生の咲真に救われます。二人が徐々に距離を縮める中でもそこはかとなく漂う悲しい展開の予感に途中押しつぶされそうになり、やっぱりそうなのかという結末は比較的よく有るパターンとも言えますが、それでも落涙必至の感動作であることは間違いありません。全編を通じ、印象的な咲真の本質をつく問いかけに作中の航基のみならず、中年の読み手である金次郎も思わずたじろがされのけぞりつつ読みました。

このところの猛暑でハト忌避剤が急速にshrinkしております(笑)。奴の帰巣本能は書き替えられたと信じ新たな忌避剤は置かないのか、それとも万全を期してもう1ヶ月ハーブのニオイに耐えるのか、酔っぱらっても家に帰れる帰巣本能の凄さを熟知している金次郎は1ヶ月延長派です(苦笑)。

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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