金次郎、50歳を迎えるも未だ天命を知らず

金次郎はさる7月14日に誕生日を迎え遂に半世紀を生き抜き50歳となりました。定年退職まであと10年、死ぬまでだいたい30年という節目を越えなんとなく先が見えてくるポイントに到達したにもかかわらず、気分的には驚くほど成長が停止してしまっており、中二病ならぬ中堅病という感じで、自分は未だに30代半ばだという妄想が重症過ぎてヤバいです(苦笑)。そんな金次郎の実状を知ってか知らずか、誕生日に75歳の父が心配そうに電話をかけてきて、お前は俺に似てふざけて人をからかう(=あだ名を付けるなどしてイジる)悪い癖が有るので、50歳になったのを機会にそれはもうやめろ、と真剣に諭されました。最近は心を入れ替えて気を付けているので心配無い旨伝えながら、いくつになっても子供は子供なんだなと感じつつ、やはりこの性格は父親譲りの遺伝でありどんなに気を付けても根治はしないのかもと若干怖い気分になりました。しかし、うちの父はいったいいつまで部下をイジっていたのだろうかと思い記憶を辿っていると、だいぶ昔ですが当時銀行の支店長だった父が部下とともに製作した面白動画を見せられたのを思い出しました。細かい内容は忘れてしまいましたが、覚えている限りでは部下の方はふざけつつもそれなりに体を張っていたような印象で、現在の基準ではややグレーゾーンに入ってしまうかもしれない悪ノリ上司によるオモシロ行為の強制にあたるのではないかという気がして、動画の雰囲気から父は支店の皆さんからきっと愛されていたと信じつつ、自分の身体に刻まれているDNAが引き起こしかねない問題行動のリスクに震撼いたしました。金次郎を直接知る読者の方は、もしそういう場面に遭遇したら、「金次郎さん、そういう性格なのは分かるけど、お父さんも心配しているからやめましょうね。」と優しく窘めていただけますと助かります(苦笑)。しかし、かの孔子先生は50歳にして天命を知る(=知命)とおっしゃったわけですが、あまりのレベルの違いに情けなさがハンパございません。

ちなみに誕生日当日は休暇をいただきまして、我々夫婦が東京ナンバーワンパティスリーだと愛してやまない目白のエーグルドゥースに大量のスイーツを求めに参りました。なぜ不謹慎にも休暇を取ったかといいますと、このお店は週末に行くと心が折れるほど長蛇の列に並ばされる可能性が有り、我が家からあまりアクセスの良くない目白まで行って、駅から10分歩いた末に炎天下で更に1時間とか並んで待つのは50代には耐えられないと思ったためです(笑)。目白駅からお店に向かっている途中で行列が見えたので、平日のくせに並んでいるじゃないか!と暗澹たる気分になりましたが、それはちょっと手前にあるつけめん 丸長の行列で一安心、目指すエーグルドゥースは3人待ちですぐに入店できました。ケーキ6点、焼き菓子16点、クッキー1点を買い求め会計が1万円ぐらいになりびびりましたが、昨今のスイーツ値上げトレンドと何より商品のクオリティを考えればそれでもまだかなり良心的な価格だと思い直しました。随分大量に買ってしまったなと感じたのは一瞬で、食べ始めると美味し過ぎてどんどんたいらげてしまい、二人で数日で完食いたしました。文字通りの中年太りが本当に気になります。

さて本の紹介です。「パパイヤ・ママイヤ」(乗代雄介著 小学館)はそれぞれパパが嫌い、ママが嫌いというネガティブな共通点からSNS上で繋がった二人の女子高生が、めったに人が訪れることの無い千葉県小櫃川の〈木の墓場〉と呼ばれている干潟で定期的に会うようになり、そこでの絵を描く少年やホームレスのトコロジョンとのやり取りなどを通じて少しずつ距離を縮めていくお話です。物語の構成もさることながら、風景の描写がとても巧みで金次郎イチ押しの乗代先生の筆が、干潟を飛び出して内房の海辺の様子を鮮やかに表現するさまは圧巻と言えます。勿論ストーリーも、コンプレックスを抱えた二人が共に過ごした眩しいひと夏を経て、自分らしくあることの心地よさに気づき、互いの内面の深いところまで知り合う中で心の絆を結んでいく展開で、SNSで知り合った二人が心通わせる親友になっていくプロセスの〈エモさ〉がたまらず、17歳女子のお話を50歳の誕生日に読んで号泣するという失態を演じてしまいました。金次郎の予想に反し芥川賞を取れぬままに既に有名になりつつある乗代先生の作品は今後も全部読んでいきたいと思います。

「名もなき星の哀歌」(結城真一郎著 新潮社)は開成中高、東大法卒という経歴の持ち主である新進気鋭の著者のデビュー作です。記憶の売買が可能という設定もののミステリー小説で、記憶という媒介を通じて過去と現在が交差する展開を中心に緻密に組み上げられた構成の妙が冴えわたる内容のため油断しているとちょっとしたはずみで筋が追えなくなって途方に暮れることになります。明確に理由を言語化して説明できないのですが、なんとなくこれまで読んだミステリーとはどこかがちょっと違うとの印象で、王様のブランチでも取り上げられた最新刊の「#真相をお話します」(新潮社)も近いうちに読んでみて結城作品の神髄をぜひ検証してみたいと思います。

いつも気になる染井為人先生の本を2冊紹介します。「海神」(光文社)は東日本大震災直後とその10年後の現在を中心にパラレルにストーリーが展開していく構成になっていて、被災された方々が筆舌に尽くしがたい苦難の果てにようやく少しづつ通常の生活を取り戻しつつある現実を突き付けられ、現状を当たり前と思ってはいけない、あの震災を風化させてはいけないと強く思わされる内容になっています。染井先生のことなので、序盤に悪人と思われた登場人物が実は善玉、という展開をイメージしながら読み進めましたが、予想は激しく裏切られ、まずまずどんよりした気分での読了となりました。被災地復興のための補助金が悪用された事件が話題になりましたが、それがどういう雰囲気の中で如何なる手口で実行されたかがよく分かりました。

「鎮魂」(双葉社)は本職の暴力団すら恐れさせ、悪事の限りを尽くす半グレ集団である〈凶徒連合〉のメンバーが次々と殺されるという事件の犯人は一体誰なのかという謎に引き込まれて読まされているうちに、そんな悪い奴らは殺されて当然、という作中でSNSがあおる甘い暴論に安易に流されてはいけないと抗いつつ、正義とは何かについて考えさせられるという、なかなかに心に負担を強いる疲れる内容の作品でした。じっくり考えながら読んでしまうと犯人が分かってしまって最後の結末が楽しめなくなるリスクが有りますので(苦笑)、ミスリードっぽい仕掛けに気づいても素直に騙されて読み進められることをお薦めいたします。個人的には、作中の鏡を殴りつけるシーンはちょっとやり過ぎかなと思いました。

7月21日には妻との入籍から満20年を迎え、あまりのあっという間さと、お互いの成長の乏しさに二人して苦笑いたしました(涙)。時のたつのは早いですね。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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