金次郎、知る人ぞ知る絶品食材ビワマスを堪能

いよいよ2022年も最後の投稿となりました。今年もずっと読んでいただいた読者の皆様、本当にありがとうございました。思い返すと妻の股関節痛がかなりひどい状況の中で難易度の高い仕事に取り組むことになった年初には、どうなることかと密かに結構気を揉んでおりましたが、色々な方のサポートをいただいたおかげで妻の状態も仕事もそれなりにうまい具合に運び、結果としては充実した良い一年になったと思います。お世話になった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。こちらも誠にありがとうございました。一年間治療に励み頑張った妻をねぎらいつつ、自分も旨いものを食べたいとの下心から28日に行き着けのイタリアンを訪問したところ、シェフから金次郎さんのために特別なお料理を用意していると嬉しいサプライズをいただきました。ただ、以前もブログ内で紹介していますが、シェフの手になる四季折々のお料理はいつも全てが特別なので一体何が起こるのかと思いつつ待っていると、

有り得ないほどに雑味の無い最高の脂がしっかりと乗っている上に、すっきりとした透明感が溢れているにも関わらず味わいがどこまでも深いという奇跡のお魚を、焼き物とお刺身で出していただき、想像を越えるサプライズにしばし夫婦で目を閉じて呆然といたしました。シェフがご主人の関係で知り合われたこだわりの釣りをされる漁師さんから特別に入手されたというそのお魚とは、琵琶湖の水深が深い場所でのみ生育する琵琶湖固有種で、食通の間では美味と評判のヤマメ亜種であるビワマスと教えていただいたのですが、お恥ずかしながら金次郎は初見の食材で日本の食文化は本当に奥が深いと感動いたしました。また、琵琶湖での釣りに魅せられたというその漁師さんのお眼鏡にかなった選りすぐりの一匹だったことに加え、彼のスピーディーかつ手際の良い活け締めの技術により更に鮮度と旨さが増しているとのことで、最高の食材を最高の技術のリレーで届けていただいた幸福を噛み締めつつ一年を締めくくることができ素晴らしい年末の一日となりました。シェフはこの食材に巡り合って調理法のインスピレーションが湧きまくっているご様子で、次は通常ブリを使う蕪鮨にビワマスで挑戦するそうなので、次回の訪問が楽しみです。蛇足ながら申し添えますと、ビワマスの他にも、白トリュフのパスタや旨過ぎる自家製クロワッサン、特選神戸牛からこの時期限定で特別に入手されたパネトーネなどとびきりのお料理をたくさん出していただいたのですが、紙幅の都合上涙を呑んで割愛いたします。シェフから予約の取れない焼き肉店に一緒に行こうと誘っていただいたので、来年の楽しみが更に一つ増えました。焼肉好きの宿敵Mも連れて行ってあげようと思います。

さて本の紹介です。「怪物」(東山彰良著 新潮社)は、台湾生まれ日本育ちの作家である柏山が描いた、戦闘機での任務中に毛沢東治世下の中国に不時着し、その後様々な辛苦の果てに帰国を果たした台湾空軍スパイであった伯父の数奇な人生を下敷きに描いた小説が売れて世に出るところから始まります。この柏山が、自らの生活に虚構が侵食してくる不思議な体験を経て、自分自身が物語の登場人物になった感覚に陥るというストーリーと、柏山の出世作であり鹿康平が主人公の「怪物」の中で鹿と伯父の人物像が交錯しながら進むストーリーが並行するために内容は非常に難解です。更に、恐らく柏山のモデルが東山先生ご自身であろうと思いながら読んでしまうと本当に頭が混乱して爆発しそうになるのですが、村上春樹ばりのファッショナブルな文体と、南米の複雑な歴史的背景が生み出したガルシア=マルケスに代表される魔術的リアリズムの手法を、同じく複雑極まる関係を有する台中間に持ち込みそれを成功させた表現力の冴えが抜群で、直木賞作「流」を同じ路線の中で昇華させ超克した傑作と言えると思います。ただ、虚構と現実が変容し続けながら複雑に融合することを繰り返すストーリー展開に、読者は物語の先読みを裏切られまくる刺激に晒され続け、疲労困憊しながらも読後の充実感を噛み締めることになるという何とも厄介な作品です(笑)。

「蒲生邸事件」(宮部みゆき著 文藝春秋)は主人公が現代と2・26事件勃発時の東京を時間を越えて移動するという特殊設定の歴史サスペンス小説です。元陸軍大将蒲生憲之の死は自殺か他殺か、時間旅行の能力を持つ平田次郎の目的は何か、という謎が2・26事件が正に出来している赤坂での数日間を舞台に少しずつ解き明かされていきます。大学受験に失敗し何事にも今ひとつ前向きに取り組めない主人公の尾崎孝史が、自らに与えられた運命を受け入れながら人生を投げ出さずに真摯に生きようとする人々に触れ少しずつ変わっていく様子が印象的な本作ですが、そういう人々が紡いだ歴史を敬意を持って学ぶことの大切さを知って欲しいという宮部先生のメッセージもしっかりと伝わります。2・26事件を直接的に描くのではなく、帝都の中心で起こった異常事態を街ゆく人々がどう捉えていたかを描き、その歴史的意義を浮き彫りにしようとした試みは半分ぐらい上手くいったかな、という感じでしょうか(笑)。以前このブログで紹介した松本清張先生の「昭和史発掘」が下敷きとして参照されているようで、その辺りも含めた本作創作についてのいきさつが「昭和史の10大事件」(宮部みゆき著・半藤一利著 文藝春秋)の中で、昨年亡くなられた歴史探偵半藤先生との対談という形で少し紹介されているので興味が有る方はぜひお読みいただければと思います。

「夜に星を放つ」(窪美澄著 文藝春秋)は第167回直木賞受賞作です。〈喪失と再生〉をテーマにし、星座をモチーフにした5作の短編が収められていますが、一読してスカッとするというよりは何度も読んでいるうちにじわじわと味が出てくる作品だと思います。早逝した双子の妹への思いやコロナ期間中の恋愛の悩みを、妹の恋人だった村瀬くんとの交流やはずみで育て始めた水耕栽培のアボカドから力をもらって乗り越えて行く「真夜中のアボカド」、小学生の〈僕〉がなかなか受け入れられずにいる父母の離婚、新しい母親、弟との生活を、同じマンションに住み東京大空襲の日の夜空を油絵に描き続けるお婆さんとの静かな交流の中で少しずつ整理していく「星の随に」が特に良かったですね。離婚後渡米した元妻と娘への思いを断てずピリッとしない生活を送る主人公が隣に越してきた母娘との疑似家族生活を通じて活力を取り戻すものの、やはり幻想は長くは続かないという「夜の湿り」では、この物語の後に〈再生〉がイメージできずちょっとネガティブな気分となり残念でした(笑)。

年初一発目は恒例企画の人気記事ランキングで始めようと考えております。これから頑張ってPV数を数えます(笑)。皆さま良いお年をお迎えください!


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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