今回は、思い出深い「大草原の小さな家」づくし

福岡の田舎の公立高校に通っていた金次郎は、高3の春先に部活を引退した後に大学受験に向けた勉強を本格的に開始したのですが、色々と間に合っていなかったためにしばらく模試の成績も振るわずE判定を連発し、その遅れを取り戻すべく帰宅後にかなりの長時間自宅で勉強する生活を送っておりました。当時は精神的に頑丈だったのか、自ら定めた一日のノルマを終えるまでは眠らないという過酷な状況に自分を追い込んでおり、文字通り寸暇を惜しんで机に向かっていた記憶が有ります。そんな何の楽しみも無い苦行の日々を送る受験生金次郎の唯一の息抜きタイムが当時NHKで再放送をしていたドラマシリーズの「大草原の小さな家」をじっくり観て思う存分泣く、というものでした(笑)。

ご存知の方も多いと思うので今更説明不要かとも思いますが、このドラマは19世紀後半のアメリカ開拓農民の生活を、貧しくとも高い倫理観と家族愛に溢れたインガルス一家を中心に描いたもので、原作者であるローラ・インガルス・ワイルダーさんの実体験に基づいた児童向け小説がベースになっています。とにかく毎回毎回、アメリカらしく全く想定不能な非日常の事件や、心が砕けてしまうような辛い災難が一家にふりかかるのですが、マイケル・ランドン演じるお父さんチャールズのどこまでも前向きな強さと、お母さんキャロラインの辛抱強さそして深い愛情で困難を乗り越え、メアリーとローラの姉妹が素直なまますくすくと成長していく様子が本当に素晴らしく、特に一家の不撓不屈のスピリットには気分転換というレベルを越えて受験に立ち向かうパワーをもらっていたように思います。

どんな災厄がふりかかるかというと、たいして丈夫そうでもない丸太小屋の家が狼の群れに取り囲まれたり、狂犬病になりかかったり、子供が井戸に落ちたり、収穫直前で全ての農作物がイナゴの大群に食い尽くされたり、家族全員がマラリアに感染したり、せっかくやっとの思いで開拓した農地を追い出されたり、使えない南軍の紙幣とも知らずに多額の遺産を手にしたと思い込んで散財しまくった結果一文無しになったり、と本当に一撃で致命傷になり得るとんでもなさなのですが、中でも最後のエピソードは、開拓農民らしい独立独行の精神と信仰に裏打ちされた相互扶助の寛容さが微妙なバランスで表現されていて、金次郎お気に入りのお話です。意外とお調子者で金持ちぶって散財した結果借金まみれになったチャールズを、町の仲間が結託して助けてあげるストーリーなのですが、そういうチャールズの決して完全無欠なヒーローでない人間らしいところも、町の仲間のさっぱりした寛容さも本当に最高です。その他にも熱病の後遺症で盲目となったお姉さんのメアリーが盲学校で苦境に立ち向かう強い気持ちを育む様子を描いたお話や、主人公ローラの恋人アルマンゾが地面に力強く根を張る植物の姿に勇気づけられ大怪我から立ち直るお話など、30年ぶりに思い返してもどんどん頭に浮かんでくるので、このドラマが金次郎の精神面での成育にかなりの影響を与えたことは間違い無く、基本的に前向きな性格もインガルス一家のおかげでそうなったのではないかという気すらします(笑)。今回このドラマを思い出したのは「ローラ・インガルス・ワイルダー伝 『大草原の小さな家』が生まれるまで」(ジョン・E・ミラー著 リーベル)を読んだことがきっかけでしたが、ローラが大草原の少女から超人気作家になるまでを綿密な調査により描いたこの本はより深く本シリーズを理解する上で大変参考になりました。あの溌溂としていたローラのイメージと、農家のご婦人として何の変哲も無い平凡な暮らしを送っていたという現実とのギャップを俄かには受け入れきれず悶々と読み進めましたが、そんな金次郎の憂鬱を一発で晴らしてくれたのはローラが「大草原~」を書いて成功したのはなんと60歳を過ぎてからであったという事実です!ちょっとしたエッセイを地元新聞に寄稿しながら腕を磨き、先に職業作家となっていた娘ローズの力を借りつつも60年前の実体験を小説にして成功された姿は、このブログでちょっとだけ似たようなことをやっている金次郎には大きな励みになりました。その成功にあやかろうという下心も有り(笑)、今更ながら原作シリーズである「大きな森の小さな家」(ローラ・インガルス・ワイルダー著 草炎社)、「大草原の小さな家」(同)、「プラムクリークの川辺で」(同)の全9作中3作を一気に読了いたしました。だいたいローラが6歳から8歳ぐらいの期間の出来事を描く内容になっていますが、森、草原、泉、小川、動物たち、農作物などが本当に瑞々しく描かれており、読みながらアメリカの大自然の懐に抱かれているような気分になる表現力は圧巻で、やはり二匹目のドジョウを狙うのは無理かと夢がしぼみます(涙)。一応子供向けの本ということになっていますが、ネイティブアメリカンの居住地を奪った歴史や先述した独立心を旨とするアメリカ人のフロンティアスピリットが小さな政府を求める主張の根底に流れている点、社会に深く根差した信仰の実態、いかに銃がアメリカ人の生活に不可欠であったかなど、現代のアメリカを読み解く上で大人としても充分に示唆を得られる内容となっておりかなりおすすめで、あと6作を読むのが楽しみでなりません。ドラマよりチャールズは少し強め、キャロラインは若干控えめと微妙にドラマで調整が入っているのも面白い。シリーズ全作を読んだ後は、妻に怒られるかもしれませんが、ドラマのDVDをまとめて大人買いしてコンプリートを目指したいと思います。

「大草原~」も大きな意味では旅の話でしたが、もう一冊やや毛色は違いますが紀行文の紹介です。以前このブログでも紹介した「日本奥地紀行」の著者である超人探検家イザベラ・バード先生が今度は朝鮮半島からウラジオストクまでを旅した様子が描かれる「朝鮮紀行」(イザベラ・バード著 講談社)はなかなかに衝撃的な内容です。1894~1897年という、日清戦争、東学党の反乱、閔妃(びんひ)暗殺など国内外で不穏な事件が頻発する不安定な李朝末期朝鮮半島における、都市及び農漁村での人々の暮らしから、朝鮮半島を巡り争う清国人、日本人、ロシア人の様子、著者が李朝宮廷に招かれた際の経験、結婚や葬礼から女性差別、鬼神信仰に至る様々な習俗までを感情や偏見を交えず非常にニュートラルに描いた優れた紀行文だと思います。ウラジオストクに移民した人々と半島の人々の行動様式の違いを比較分析しているくだりの視点は正に科学者のそれで感銘を受けました。女性は家の表に出てはならず声も出してはいけないというのはほんの一例ですが、男尊女卑などという言葉では表現できない凄まじい女性差別の実態は意外にもイスラム教原理主義の習慣と似通ったところが有りこういうものは洋の東西を問わず一つの方向に収斂するのだなと変なところに感心したりもいたしました。腰痛の持病を抱える著者は乗り心地の劣悪な牛馬の背に長期間揺られ続けたり、乗っていた船が急流で沈みそうになったり、満州の奉天で大洪水に遭遇したり、不潔極まる上に温度調整の効かない高熱床暖房の狭小住居での宿泊を余儀なくされたりと、当時としてはそこそこ高齢な60代としては到底耐えられそうもない過酷な旅路を非常に淡々とこなしており、探検することそのものをモチベーションとした真の超人だなと改めて感じました。ただ、この旅を終えた4年後の1901年に亡くなられていることを考えると、やはり体への負担は相当なものだったのではないかと思わずにはいられません。

妻が念願のELLEGARDENのライブから放心状態で帰ってきました。誰にも迎合しない求道者細美武士が魂を削って紡ぎ出す音楽の影響力の凄まじさがよく分かる放心ぶりでした(笑)。16年ぶりの新アルバムツアーは小さなライブハウスでやるかもしれず、参加するには金次郎も魂のレベルを上げておかないと危ないなと思っています。

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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