金次郎、鮨の名店である六本木兼定で大将のお言葉に感動

先週は友人と鮨の名店である六本木の兼定に行ってまいりました。15歳でこの世界に入り、九州から青森まで日本中で様々な食材に向き合い修行されたこの道60年という達人の大将が長年培った信頼関係を通じてその日一番のネタを仕入れ、ネタの状態に応じた最高の仕事をした上で提供してくださるお刺身や焼き物そしてお鮨はいずれも絶品のクオリティで心の底から満足できる至福の時間でした。ビールのおつまみとして出されたただのワカメから相当美味しくていきなり感動でしたが、その後はメヒカリの揚げ物で、こんなに小さな魚なのにどうしてこれほどの良い味わいになるのかと不思議な気分となり、その謎についてさかなクン先生に聞いてみたいと真剣に思いました。そして、東京湾のヒラメ、スミイカ&アオリイカ、更に脂の乗ったカツオのお刺身を少しずつ切っていただき食欲が刺激されたところでいよいよお鮨のスタート。

最初からサバの棒寿司の豊潤な味わいに衝撃を受け、その後も中トロ、コハダ、サバのあぶり、ウニなどをいただき、間に焼き物を挟みつつこれでもかと極上のにぎりを立て続けに供され友人との会話が完全に疎かになってしまい、間抜けに〈これ旨い〉を連呼する50歳のおやじ二人、客観的に見て風格もオーラも無い情けない姿であったと思います(涙)。そして、アジの押し鮨を食べている際に改めて確信したのですが、ここのお鮨はシャリが抜群に美味しいのです。温かいシャリなのに全くベチャベチャしておらず、寧ろ米粒の一粒一粒がそれぞれ弾力充分でしっかりと独立して存在を主張しており、はらりとほどけた後もきちんとネタと馴染んでいて味も食感もハーモニーも最高でした。うかがうと、シャリには相当こだわられているようで日本全国のお米を食べて厳選されているとの説明に心から納得いたしました。その後もヒラメ、エンガワ、ヒラメの皮焼きとその日の東京で一番良いものと太鼓判のヒラメづくしのにぎりを堪能し、カワハギ、スジコ、更にはカンピョウ10年と言われる地味なのに技術の差が出るカンピョウ巻きをいただいて、もうほぼ満腹なのにも関わらず、東京湾の塩アナゴと煮ツメアナゴ、更にエビなどの多彩な具材と共に丁寧に仕込まれ炭火で調理された最高の玉子が出されると瞬殺で口に入れてしまうから不思議です。金次郎が勝手に江戸前寿司の生きる伝説と尊敬している大将は、毎朝豊洲市場に出かけるのが楽しみと仰っていましたが、市場に有る美味しそうなネタは値段を気にせずついつい買ってしまうという話をされている際にはにかむようにもらされた「魚に惚れちゃうんだよな」という一言にこもった深くて純粋な鮨愛と、このセリフが似合いすぎる大将のカッコ良さに激しく感動した素晴らしいひとときでした。勿論お安くはないお鮨にて頻繁にはうかがえませんが、お店を出て帰宅するまでの30分ぐらいの間にまたすぐ食べたくなるような逸品なので、今後も頑張って他で節約し、できるだけたくさん通いたいと思います。

さて本の話です。今回は一つ一つを短めにして、いつもより多めに本を紹介してみたいと思います。「オリンピックの身代金」(奥田英朗著 講談社 )は、オリンピックの開催を前に狂奔する昭和39年の東京で、兄の死をきっかけに階級格差や東京と地方の格差を目の当たりにした東大生の島崎が、真面目で物静かな学生から麻薬を常用する激情無きテロリストに迷いも葛藤も無く変貌を遂げる淡々としたプロセスが描かれるクライムサスペンスです。オリンピックを大過無く実施するためにテロ攻撃を国民や国際社会にひた隠しにしようとする国家権力の姿が、敗戦を含めたそれまでの歴史をオリンピックというお祭りで塗りつぶしてしまおうとする不健全さと重なり、そういう世相が島崎という哀し過ぎる怪物を産み落としてしまった様が生々しく描かれており戦慄を覚えました。過激な学生運動家でさえ子供じみて見える島崎の凄味が印象的な作品でした。

「競争の番人」(新川帆立著 講談社)、「競争の番人 内偵の王子」(同)は杏さん主演で月9ドラマとなった話題作です。そもそも公正取引委員会というレアな組織を取り上げるアイデアを思い付いた段階で新川先生の戦略勝ちという感じですが、さすがは弁護士作家、何故公正な取引を保護することが重要なのかという〈法の精神〉の本質をきっちり押さえたディテール描写で、一般的なエンタメ小説に留まらない付加価値を作品に与えています。審査官の白熊楓が、ウェディング産業や呉服取引などで発生している様々なパターンの談合や不正競争の取り締まりに、強い権力を持たず制約も多い公取委という組織の枠の中で悩みながら取り組む姿はミステリーなのにお仕事小説でも有るという一粒で二度美味しい新感覚の読後感でした。

「とんこつQ&A」(今村夏子著 講談社)は芥川賞作家今村先生の描く不思議な世界を堪能できる短編集となっています。極めて純粋かつ真面目に物凄く変なことをする人々についての物語ですが、例えば表題作「とんこつQ&A」では、お客とまともに話せないコミュ障の〈わたし〉が、全ての会話のパターンを莫大なQ&Aメモとしてまとめ肌身離さず持ち歩くことで、中華料理店〈とんこつ〉で紆余曲折を経ながら居場所を見つけて行くというなんのことやら分からず途方に暮れるストーリーが展開します(笑)。「冷たい大根の煮物」では、光熱費を浮かすために他人の家で親切ごかしに料理を教えてくれるセコいおばさんとのやり取りを通じて、人生の実感を取り戻す主人公が描かれていて、いい話なのかそうでないのか何とも言えない気分となりました。

「砂嵐に星屑」(一穂ミチ著 幻冬舎)は大阪のテレビ局を舞台に繰り広げられる年齢も性別も立場も違う悩める大人たちを描く連作短編群像劇です。簡単には知り得なさそうなテレビ局の内情が細かく描かれていて凄いなと感じました。40代不倫アナ、50代悩める報道デスク、30代恋愛不調タイムキーパー、30代ぬるま湯非正規ADと、登場人物が誰ひとり颯爽としておらず、寧ろ全員ぐだぐだなところが、自分のこれまでの人生の様々な場面と重なり過ぎて、首が凝りそうなほど頷きまくりながら一気に読了いたしました(笑)。キャラの描き分け、多様な悩みの腹落ち感、短編の中でも起承転結の整ったストーリー展開の妙と一穂先生の筆力と才能が如何無く発揮された秀作だと感じました。

「植物図鑑」(有川浩著 幻冬舎)は岩田剛典さん・高畑充希さんダブル主演で映画化もされたのでご存知の方も多いと思いますが、有川先生お得意の甘々恋愛小説です。ある冬の晩に自宅マンションの前で行き倒れていたイツキを拾い家政夫にしたさやかは、彼の真面目さと自活力に少しずつ惹かれていきます。更に二人の仲を深めるのがひょんなことから出かけた野草採集とその野草を使った安上がり料理での共同作業なのですが、小説の中では本当に四季おりおりの〈野草〉が美味しく食べられる様子が印象的に描かれているものの、金次郎の友人で同様に植物図鑑を熟読して河川敷で野草を採集して料理した経験を持つTS氏によると、「苦くてとても食えないし、すぐに腹が痛くなり最低」とのことでしたのでちょっと話半分という気分で読み進めることとなりました(笑)。

その後別の友人と会食する予定ができたので、早速兼定の予約を試みましたが、年末までかなり埋まってしまっていて今回は日程合わず断念となりました。大変残念ですが、また来年頑張ります。


読書日記ランキング

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「金次郎、鮨の名店である六本木兼定で大将のお言葉に感動」への4件のフィードバック

  1. 金次郎さんこんにちは、ご無沙汰しております。
    昨日(16日)美容院に行き、そこで「昨日(15日)師匠が…」と個人情報をリークしてもらいました、申し訳ございません笑
    毎週ブログを拝見しながら、オグリキャップのラストランはウインズ札幌で仲間と見守ったな、あの時の勝馬投票券は宝物だな、とか、うちの近所にも美味しいケーキ屋さんがあるので、機会があれば是非一度召し上がっていただきたいな、などと一方的に考える日々。
    ABちゃんは受験生なのに変わらず楽しく読書です。「コンビニ兄弟2」は1日で読んでしまいました。もうちょっとゆっくり読めばいいのに。
    あまりに受験生らしくない2人と、東野圭吾さんに出てきた「麦とろやさん」に先日行ってきました。「加賀さんとお揃いの鮭にしよう」などと、謎の発言をしていました。ただ単に、めかじきより鮭のほうが好みなだけですが。
    とりとめなくなりました、ではまた。

    1. 恵子さん、こちらこそご無沙汰しております。Eさんのところには今週妻がお世話になり、来週私が散髪納めです。というか、あの店舗納めですね(涙)。いつもブログを読んでいただいているようでありがとうございます。25日は有馬記念で今から楽しみですし、ご近所のケーキ屋さんにもぜひ行ってみたいところです。
      ABさんは変わらず読書されているのですね(笑)。一応ここまで気を使ったので初志貫徹で次の紹介企画は3月ぐらいにしようと思っております。
      私は今「大きな森の小さな家」を読んでいますが、これは私の人生に少なくない影響を与えたドラマ「大草原の小さな家」の原作シリーズ第一巻になります。同年代とおぼしき恵子さんにも共感いただけるのではないかと思いますが、どこかで感想を書きますのでお楽しみに!

      1. ABちゃんも有馬記念を楽しみにしております♪ といっても、レースを観て「わーー」って言ってるだけですが。
        私は美容室納めしましたが、ABちゃんの27日訪問にくっついて行きます。Eさんには「ツケOK」と言われておりますが、さすがに借金して越年はちょっと…
        ケーキ屋さん、東急東横線学芸大学駅にある「マッターホーン」をご存知でしょうか。個人的には「モンブラン」のモンブランよりも「マッターホーン」のモンブランのほうが好きです。今年のクリスマスケーキもマッターホーンの予定です。が、いつもホールケーキを予約するのではなく、あえて当日並んでカットケーキを購入します。なぜならAちゃんはチョコケーキ好き、Bちゃんはいちごショート一択。みんな好きなものを食べるため、今年も並んでまいります。

        1. 恵子さん、こんにちは&メリークリスマス!
          有馬記念は運良く単勝が的中し、結局買ってしまった「大草原の小さな家」のDVDコンプリートボックス費用の足しにすることができました(笑)。
          ケーキ屋さん情報ありがとうございます。行ったことの無いお店でしたので、大好物のモンブランを買いに行くのが楽しみです!双子ちゃんでもそんなに好みが違う、というかピンポイントのこだわりがすごいですね。我々夫婦は甘いものならかなり雑食です^^
          今年もブログを読んでいただいてありがとうございました。どうぞよいお年をお迎えください!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA