友人に薦める〈爽やか〉な〈夏〉小説!

このところ金次郎家もドラマ「半沢直樹」の高視聴率に貢献しており、毎度劇的な展開をなかなか楽しんで観てはいるのですが、リアリティの無さはまぁ良いとして、あまりにも単純化された二項対立の構図を(金次郎家も含め)視聴者が求めているというのは、やはりコロナの時代にストレスを感じずに毎回きちんとスカッとしたいという社会の要請ということなのでしょうか?そうだとすると、やはりNHK大河は苦戦するでしょうし、「白い巨塔」や「不毛地帯」のような重厚な長編小説を趣深い連続ドラマに仕立てる挑戦は近い将来には見られないのだろうなと思いちょっと寂しいです。某メガバンクに半沢のモデルとなった方が実在されていると何かの記事で読みましたが、グループのトップを争われているとのことなので、ドラマのような大立ち回りでコンプライアンスに引っかからぬようくれぐれもご注意頂きたいと思います(笑)。

さて、今回は会社の同僚でありこのブログも読んでくれているTHKさんからの、〈爽やか〉、〈夏〉、〈人が死なない〉小説を紹介して欲しい、とのリクエストにお応えいたします。先ず、既読本のリストをざっと眺めてみたのですが、驚くほど人がバタバタ死ぬ上に、とても爽やかとは言えない小説の比率が高く、自分の趣味の偏りに強い危惧を感じました(苦笑)。貧弱なリストからかき集めたものだけでは足りないので、恥ずかしながら色々調べてみて、良さそうな本を読んで比較した結果のトップ3が以下となります。テーマがテーマなので、どうしてもスポ根、中高生関連が中心になっちゃいますね。ちょっとTHKさんの好みとは違う気もしますがあしからず。

3位 「DIVE!!」(森絵都著 講談社 ):サラブレッド天才ダイバー富士谷要一、類まれな素質の持ち主である坂井智季、伝説の高校生ダイバー沖津飛沫を中心に、多感な少年たちの葛藤と成長を描いた王道スポ根小説です。ライバルとの切磋琢磨、様々な大人の事情への反発、などのお約束な部分も良いですし、何より自分の枠を超えて行こうとチャレンジする姿が素晴らしい。ジャッジや採点に縛られたくないという思いと、所詮人生はルールと評価に縛られるものという達観のせめぎ合いは、簡単に善悪や是非を決められない、二項対立で片付けられない難しさ故の深みが有りますね。三人のメインダイバーだけでなく、サブキャラたちが非常にいい味を出しているのもこの小説の特徴で物語に立体感が出ています。金次郎はサラブレッドでも天才でもないですがクール&ビッグマウスの要一が押しキャラです。スーパーマイナースポーツと言ってよい飛込みに少しだけ詳しくなれたのも収穫でした。【爽やか度★★★★ 夏度★★★】

 

2位 「夏期限定トロピカルパフェ事件」(米澤穂信著 東京創元社):これは〈小市民〉シリーズ第二作に当たる作品で本当は第一作の「春期限定いちごタルト事件」(東京創元社)を踏まえて読んで欲しいところではありますが、途中からこの作品だけ読んでも充分楽しめる内容になっています。米澤先生のミステリーはどれもクオリティが高く、一つの作品で何度も驚かされる仕掛けが好みでもあり、このシリーズも気にはなっていたものの、あまりにもタイトルがポップ過ぎて手に取れずにおりました。今回お題に沿った本の紹介というきっかけを貰ったこともあり読むことができたのですが、実際に読んでみると、美味しそうなスイーツ食べ歩きの場面から物語は不穏な空気を帯びつつ大転換し、全くポップではない、そういう意味では爽やかでもない、プロットと登場人物の内面が織りなす重厚な世界へ誘われる展開で、傑作と評価されるだけのことは有る満足できる内容でした。常悟朗と小佐内のこじらせコンビが今後どういう関係を結びつつ成長し変わって行くのか、あまりにも気になってしまい、お題と無関係の「秋期限定栗きんとん事件」(同 上巻下巻)も一気に読んでしまいました。先述の通り爽やか度は低いものの、THKさんのミステリー好きを忖度して2位としました。【爽やか度★★ 夏度★★★★★】

1位 「世界でいちばん長い写真」(誉田哲也著 光文社):本ブログでも以前紹介した「ストロベリーナイト」シリーズの誉田先生には、金次郎の中で猟奇的な犯罪者を追い詰める警察小説の書き手というイメージが固まっており、本作読後の印象は、誉田先生って二人いるの?、というものでした。親友の転校で学校での立ち位置に悩み、自分を上手く表現できなくなっていた宏伸が偶然見つけた特殊なカメラで撮影する写真の世界にのめり込み、やりたいことに情熱を持って取り組む姿勢が人を動かし、自分をも変えて行くという成長物語ですが、読後にあたたかい気持ちで心が満たされる作品となっておりあまりにも猟奇的でない。。。ちょっと過激キャラですが従姉のあっちゃん(温子)がパンチが利いていて面白い。そのあっちゃんが「ギャンブルのようなゼロサムでなく、誰かの役に立つ仕事をしろ。」というような意味の発言をするのですが、最近の「半沢」でもそういう台詞ありましたね。大きな仕事を成し遂げるには周囲の支援が不可欠ですが、素直さ、情熱、楽しむこと、やり切る信念、がやはり重要だな、と何度目かの再認識をした金次郎でした。【爽やか度★★★★★ 夏度★★★★】

次点 「800」(川島誠著 KADOKAWA):800メートル走という陸上競技の中でも最も過酷な種目に取り組む二人の高校生の内面を詩的に描く青春小説です。奔放な若者の性がふんだんに描写されているので爽やか度が低く上位に入りませんでしたが(笑)、動の中沢と静の広瀬という対照的な二人の一人称単数の語りが交互に続く構成となっていて、複雑に揺れる思春期の若者の心情を密度濃く切り取った小説としてのクオリティは非常に高く、未だに評価され続けているのも頷ける内容です。とにかく理論的・分析的な〈精密機械〉と感情的・直感的な〈動物本能〉の対照が素晴らしいのでぜひご一読下さい。【爽やか度★★ 夏度★★★★】

次点 「サマータイム」(佐藤多佳子著 新潮社):佐藤先生のデビュー作である本作は、表題作を含む4作の連作短編形式となっています。進と左腕を失くした少年広一との出会い、かんしゃく持ちで女王様気質の姉佳奈が絡んで複雑化する三人の関係、挫折と別れ、そして再会と起承転結の基本に忠実な表題作は瑞々しくてまっすぐで危い小学生の心を美しい表現で物語に閉じ込めた素晴らしい短編小説です。残りの「五月の道しるべ」、「九月の雨」、「ホワイト・ピアノ」は「サマータイム」の間を埋めるサイドストーリーズですが、いずれ劣らぬ秀作揃いで、またもやデビュー作には作家の全てが詰まっているを体感です。やや夏度が低く惜しくも次点となりました。【爽やか度★★★ 夏度★★】

次点 「少年の輝く海」(堂場俊一著 集英社):「ライオンのおやつ」同様離島ものですが、こちらは人は死にません。瀬戸内海の離島に山村留学に来た浩次が島の沖合に沈んでいる海賊の宝を探す中で自分の進むべき道を見出して行くという成長物語です。瀬戸内の離島には沖縄の離島とは一味違う寂寥感を感じるのですが、その寂しさや閉塞感の中で立ち上がってこそ成長という気がして気分良く読み終えることができました。ストーリーとしてはたいしたことも起こらず淡々と進むのですが、故障に苦しむ天才スイマー花香の姿がちょうど池江選手の復帰戦のニュースと重なって応援したい気分になって選出です。【爽やか度★★ 夏度★★★】

さてさて、THKさんの夏の読書の参考になるや否や。お題を貰うと自分の好みの枠にはまらぬ読書ができるので面白い本に出会うチャンスが増えて嬉しいですね。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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