金次郎、数十年ぶりに「ロビンソン・クルーソー」を読んで感心

早速ですが、先日読んだ「マイク:Mike」(アンドリュー・ノリス著 小学館)はちょっと変わった内容のなかなか興味深い児童書で、テニスの錦織選手を目指す実力が有るにも関わらず、さかなクン先生の人生を選ぶイギリス人少年の物語です。イギリスジュニアテニス界で順調に実績を積み上げ、将来のウィンブルドン制覇も夢ではない実力を身に着けたフロイド少年にだけ突然見えるようになった謎の男マイク。やたらとテニスの邪魔をしながら、フロイドの将来についてアドバイスと呼べる程には明示的でないサインを送り続けるこの男は何者なのか、という謎で読者の興味を引きつつ、苦悩と葛藤の果てにフロイド少年が手に入れた幸福を描く感動ストーリーになっています。大人は子供の将来という難しい問題にどういうスタンスで臨むべきか、という答えの無いテーマに挑戦しているチャレンジ精神は大いに評価できますが、そもそも錦織>さかなクン、という価値基準を一般化するところから全てが始まってしまっているのが必ずしも適切とは言えない点が気になります。また、本当にやりたいことを突き詰めれば社会的にも成功し充実した人生が送れる筈という精神論的ご都合主義のせいで、自らの心の声をしっかりと聞き、自分の信じられる道を進むことが、社会的な評価とは無関係に幸福な人生を送る上で重要な指針であるとの主要かつ大切なメッセージがシンプルに伝わりにくくなっているところが惜しい(笑)。アンハッピーエンドは児童書向きではないですし、金次郎も好きではないですが、やはりこの作品には一般化され過ぎたステレオタイプのハッピーエンドを持ってくるべきではないと思います。あ、けなしているわけではなく、それなりに楽しめた上での感想ですので誤解なきようにお願いします^^

そんな錦織選手もコロナに感染してしまいましたが、コロナと言えば最近プール式PCR検査に関連した記事を複数目にしました。日経新聞にも出ており皆さんご存知とは思いますが、非常に合理的だなと思いましたので、読書とは何の関係も有りませんが紹介しようと思います。この〈プール式〉とは、被験者から複数のサンプルを採取し、数人分の唾液検体を混ぜた上でPCR検査を行う方法のことで、市中感染率が低い感染症のPCR検査を無症状の人を中心に大規模に実施するのに適しています。市中感染率を仮に0.1%、PCR検査コストを3万円/回とすると、従来のやり方だと一人の陽性を見つけるのに1000回の検査で3千万円かかる計算となります。これを複数人(例えばここでは4人とします)一組のプールでまとめて検査する〈プール式〉で行うと、確率的には250回の検査で249グループは陰性とわかるので、陽性となった1グループ4人それぞれに検査を行えば合計254回の検査で済み、762万円でOKということになります。慎重な検体のハンドリング等の高い検査技術が求められる点と偽陰性の問題もクリアすべき課題ではありますが、一つのボトルネックとなっている検査キャパとコストの問題を解決できる合理的な方法と感じました。

さて読書の話です。小学生の時に児童書バージョンを読んだきりになっていた「ロビンソン・クルーソー:完訳」(ダニエル・デフォ著 中央公論新社)を読んでみました。どちらかと言うとフライデーとの出会いから脱出のくだりをクライマックスとする冒険物語との漠然とした記憶で読み始めたのですが、オリジナル版の読みどころは寧ろ物語前半に詰まっていました。物語前半のストーリーは、変化の少ないイギリスでの生活を嫌い、父親の反対を押し切って大西洋航路に身を投じたロビンソンが、嵐に遭遇したり、海賊に捕まり奴隷にされたり、そこから逃亡する途中西アフリカで獣を倒して皮を剥いだりと四苦八苦しながらなんとかブラジルに到達し、タバコと砂糖の農場を始めてそれなりに成功するところから始まります。それだけでも充分波乱万丈なのですが、アシエント制度によってスペイン王室が西アフリカからの黒人奴隷調達を独占していることに目を付け、これを密貿易で取引しようと大胆な西アフリカ行きの計画を立て、いよいよブラジルから出航したところで大嵐に遭遇し、漂着した無人島で27年のサバイバル生活を送ることになる、とご存知の通り物語はどんどん凄い展開になって行きます。

この前半の面白さは、1414年のトルデシリャス条約以降、スペインとポルトガルが暴利を貪ってきた大西洋貿易に後発のイギリスが進出し始めた歴史好きにはたまらない時代のダイナミズムを感じられるところや、イギリスから雑貨・工業製品を西アフリカに輸出、そこで黒人奴隷を買い付けて新大陸に持ち込み、砂糖・タバコ・綿花・コーヒー等のプランテーションを運営してこれら製品をイギリス本国に持ち込んで利益を上げるという大西洋三角貿易の原型に臨場感を持って触れられる部分など、単純な冒険物語を越えて、当時の経済事情を垣間見ることのできる奥深さにあると思います。

また、無人島でのサバイバル活動では、ロビンソンの勤勉、自制、忍耐力、合理性、好奇心、大胆さ、臆病さ、計画性といったおよそ現代のビジネスパーソンに求められるありとあらゆる能力が遺憾無く発揮され、かのアダム・スミスも認めた経済人ロビンソンの面目躍如の数々は、色々な意思決定のケースとして経営の勉強にすらなる内容です。それらの能力を駆使して、戦略的、効率的にPDCAしながら営まれるサバイバル生活そのものにも勿論ぐんぐん引き込まれますし、以前このブログで紹介した同様の漂流物語である「蠅の王」の少年たちとはレベルが違う高度なサバイバルをご堪能頂けると思います。児童書バージョンだけ読んでオリジナルは未読という方がほとんどと思いますが、それはあまりにも勿体無いので、是非このオリジナル版をお読み頂ければと思います。間違いなくおすすめの良書です。

また少し不眠症気味になってきているので、そろそろ会社に行こうかな(笑)。不眠症のおかげで読書はどんどんはかどっており、現時点で8月既に28冊読めてます!

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA