〈板垣死すとも自由は死せず〉の嘘!

(前回の 「二人のカリスマ」(江上剛著)を読みセブン&アイを改めて学ぶ が読めないケースが有ったようなので、宜しければこちらからお願いいたします。)

相棒シーズン19が遂に始まりましたが、何と言っても先日亡くなられた芦名星さんが出演されており、これまでと変わらぬ好演をされていたのを観て非常に悲しい気持ちになりました。初回は全く違和感無かったですが、第二回の放送では声が少しいつもと違うかな、という印象で、後付けではありますが色々と悩まれていたのだろうか、と思ったりして更に悲しくなりました。心よりご冥福をお祈りいたします。

さて、門井慶喜先生は歴史上の人物を主人公としたフィクションをよく書かれていますが、ヒーロー化するようなデフォルメをされておらず、筋の通らないところや、意地悪で嫌な奴なところもそれなりに描かれているので、読後の痛快感は強くないのですが、人間くさいリアルさが感じられるところがだんだん癖になってきます。以前のブログで紹介した作品では徳川家康と宮沢賢治が主人公でしたが、今回は板垣退助と辰野金吾という渋いところを攻めています。

「自由は死せず」(門井慶喜著 双葉社)は、幕末の志士、維新の元勲、自由民権運動家、憲政の父、とめまぐるしくキャラ変を繰り返す、ある意味捉えどころの無い板垣退助の半生を、特段美化することもなく、淡々と描いた作品です。

教科書的には、立志社から国会期成同盟、そして自由党と他に先駆けて本格政党を立ち上げ、〈自由〉の概念を国民に根付かせた民権運動家として記憶している部分が大きいですが、薩土密約から土佐軍の近代化、甲府での新選組撃破、会津城攻略など、幕末の激動期にもかなり活躍していたと知ってやや意外でした。武市半平太、中岡慎太郎、後藤象二郎ら土佐藩出身者との縁が面白く描かれていますが、同じ土佐出身でも坂本龍馬や岩崎弥太郎との関わりは薄かったようで扱いは小さめです。

 

作中で佐賀の乱の江藤新平にも指摘されていますが、武士の統治という意味では江戸時代と変わり映えのしない藩閥政治に異を唱え、自由民権運動にその身を投じていくあたりのいきさつがやや不明瞭ではあります。さほど尊王的な人物としては描写されていないのですが、結果的には一君万民思想に基づいて、原理主義的に急進的な身分制度撤廃へ進んだのかなと感じますが、伯爵に叙せられていたりもするので(文中では慣れない、と言っていますが)、この辺りの解明は今後の歴史考証に期待したいと思います。かの有名な〈板垣死すとも自由は死せず〉という発言は実際にはしておらず、暴漢に襲われてから30年以上生きた、というのはなかなか傑作です。

「東京、はじまる」(同 文芸春秋)は、日本銀行や東京駅の設計、建築を手がけた明治期隋一の建築家である辰野金吾を主人公としつつ、明治期東京の発展を描いた作品です。鹿鳴館を建てた師であるイギリス人建築家であるジョシア・コンドルをライバル視し、外国人に依存しない日本人による建築を通じた、真の意味での日本の発展を目指した辰野でしたが、師匠、友人、競合との関係に悩みつつ、またイギリス式かドイツ式か、効率性か様式美か、という葛藤にも苦しみながらも、圧倒的なエネルギーと推進力で建築分野から日本の近代化に貢献する姿は圧巻です。実際のご本人は、ちょっと友達にはなれそうにない偏屈な方とお見受けしましたが(笑)。脇役としてかなりの存在感を放っているのが高橋是清で、酒と博打にうつつをぬかし、アメリカでは奴隷となり、ペルーでは詐欺に引っかかって大損するなど、その破天荒ぶりが際立っています。後の大蔵大臣が辰野の下で事務方として日銀建設に関わっていたとは驚きでした。

最近嫌ミスの女王が東京の地形に注目した作品を何冊か書かれていますが、中でも「縄紋」(真梨幸子著 幻冬舎)は、貝塚にその痕跡を残す関東の縄文文化を、縄文人との意識の交錯を媒介に、現代東京の地形の上に描き出した意欲作です。全く知らなかったのですが、昔よく行きつけの焼き鳥屋に通った千駄木の団子坂近辺で、縄文人の骨格が発見されていたということで、漱石や鴎外の足跡を辿るという意味でも改めてあの辺を散策してみたくなりました。

他にも、台地と谷が入り組んだ地形を〈山の手〉と称したとの語源、根津神社の由来や平安海進の痕跡など、興味深い知識を得られる作品でもありおすすめです。勿論ミステリー的要素もありきちんと楽しめるのでご安心下さい。

もう一冊、「京都を壊した天皇、護った武士 1200年の都の謎を解く」(桃崎有一郎著 NHK出版)は、京都を荒廃させたのは常に皇族の側であり、武士政権はその正当性維持のために、天皇家及びその居所である京都の保全に優先的に取り組んでいた、という眼からウロコ的な内容の本で面白いです。現在の京都御所に天皇の居所が定まるまでの変遷を丁寧に解説してあり、分かりにくい大覚寺・持明院両統迭立から南北朝動乱への時代の流れが、京の都の拡張の歴史と合わせてすっきりと理解できる良書と思います。

特段宣伝をしていないので当然なのですが、ややこのブログのview数が停滞しており、面白い企画を考えなければ、と思い悩む今日この頃です。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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