金次郎、福岡県出身のブレイディ・ミカコ先輩を再認識+30年前の思い出を語る

金次郎の住む東京は2000人を超える新規感染者が発生し先週から緊急事態となってしまいました。基本は在宅勤務となり、飲み会も自粛となってしまい、読書感想以外でブログに書くネタを見つけるのに一苦労です。新しいことと言えば、英会話のレッスンを入れまくって、コロナ関連の英単語の知識が増えたことぐらいがせいぜいですね。例えばcurfew(夜間外出禁止令、門限)、new strain(新変異種)、jab(皮下注射、ワクチン予防接種)などですね。早くこんな単語をまた忘れてしまえる日常が戻ることを祈ります。ちなみに全く関係有りませんが、ニュージーランド人の先生と本の話をしていた際に、小説の主人公はprotagonist、敵役はantagonistと教えてもらいました。

新しいネタが無いのでぐーんと過去のネタで(笑)。前回のブログで金次郎が上京1年目に住んでいた学生ハイツについて書きましたが、そこは大学生だけでなく、専門学校や短大で学んでいる人、東京の予備校に通う地方出身の浪人生などもいて、更にフロアは分かれていましたが男女の共同生活という、ちょっと前に流行ったシェアハウス的な刺激的空間でした。各フロアのメインの入り口から入ると、その近辺にいずれも共同の洗面所、冷蔵庫、トイレ、コイン洗濯機&乾燥機、コインシャワーが有り、各部屋はビジネスホテルのような感じで内廊下を中心に左右3~4部屋ずつというレイアウトだったと記憶しています。本当に色々なことが有ったのですが、一例を挙げると、金次郎のいた6Fでは、(若気の至りとは言え大変反省しております)洗面所でゆで卵を爆発させる行為が一瞬ブームとなりました(苦笑)。今にして思うとなぜそんな事を面白がったのか全く理解できませんが、飽きるまで数回やったように思います。ブームも去り、その後しばらくして、洗面所に一番近い601号室に住むOちゃんのところに遊びに行くと、なんだか床が脂っぽくベトベトしていました。Oちゃんにその床の違和感について尋ねたところ、口数は少ないものの芯の強いナイスガイのOちゃんがぼそりと言いました。

「バルサンだよ。」

そうなんです。気持ち悪い話で恐縮ですが、ゆで卵の残骸は東京ど真ん中の雑居ビルに大量のGを発生させ、その被害を最も受けたのがOちゃんの601号室だったのでした。寝ている間に枕元でGの動くカサカサという音がしていたそうで身の毛もよだちます。Oちゃんごめんね。最近会えてないけど元気かな?トラウマ化していないことを祈ります。ちなみにこのOちゃんは後に〈あいのり〉に出演することになります!

これを書いている間にも色々思い出してきましたので、また折に触れて書きますね。

さて、前置きが長くなりましたが今回は福岡県出身の先輩であるブレイディ・ミカコ先生の著作を紹介します。「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)について以前のブログで書いた頃は、ミカコ先生を気合の入った肝っ玉かあちゃんライターと思っていましたが、「ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート」(岩波書店)、「ブロークン・ブリテンに聞け」(講談社)を読むと、バリバリの左派政治・社会ライターであることが分かり認識を新たにしました。政治に疎い金次郎にも、二次大戦後の英国左派全盛の時代(社会で習ったゆりかごから墓場まで、です!)、マーガレット・サッチャーによる新自由主義が格差を産み育んだ時代、トニー・ブレア労働党の失敗、その後の保守党政権による格差問題の深刻化、という流れがよく理解できる内容になっていてありがたいです。スコットランドSNPのニコラ・スタージェンの主張についてもスペイン・ポデモスのパブロ・イグレシヤスとの比較で分かり易く説明してあり、独立問題の論点を自分の中で整理することができました。

とにかく、従来の〈左・労働党vs右・保守党〉のシンプルな対立構図から、ミカコ先生が言うところの〈上vs下〉、〈EU残留vs離脱〉という軸が加わりより混沌とする英国社会の現在を知り、更に相対化を通じて日本社会の現状をより深く理解するために非常に有意義な内容でした。ミドルクラスが地盤沈下し、構成員がマッチョな労働者から誰かのケアをする人々中心に変容する中で、〈下〉の人々は利他的な行動を取る傾向が強まっており、集団として自分の生活のために声を上げない=左のまとまりが弱い、という意見はなるほどと思いながら読みました。

しかし、それなりに充実していた筈のセーフティーネットもかなり綻び、working poorの生活困窮者やホームレスの人々が急激に増える英国社会を現在コロナ変異種が襲っているかと思うと恐ろしい。ちなみに街中の不動産は外資が買いあさって市場価格が高騰し、家賃も連れ高となって空き家が増え、ホームレス急増とのコントラストが問題になっているようです。

保守党による新自由主義政策の成功の根拠として極めて低い失業率がよく挙げられるのですが、最低賃金の時給は保証されているものの、給与金額が保証されていない、所謂〈ゼロ時間契約〉を余儀なくされている労働者も就労者にカウントされているというからくりが紹介されていますが、このworking poor層の切り捨てや、かつて英国をけん引した労働者の誇りに光を当てる試みが、「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場」(ジェームズ・ブラッドワース著 光文社)です。この本は、著者がアマゾン、コールセンター、訪問介護、ウーバーの現場で働いた実体験を基に、その悲惨な労働環境の実態について、避けて通れない移民労働者やホームレスの問題にも触れながら記述する内容になっています。グローバル企業の横暴ぶりを暴露して批判するだけの単なる潜入ルポの枠を超えて、新自由主義によって徹底的に分断された労働者階級が大企業に収奪される一方、エリート富裕層に支えられた現政権がその窮状に目を向けないにも関わらず選挙に勝ち続けるという社会の歪みが、草の根レベルから英国を侵食していく様を突き付けてくる骨太な作品だと思います。この本は、ミカコ先生の「ブロークン~」でも紹介されており、〈右vs左〉でなく〈上vs下〉という現状をより実感するできるという意味で合わせて読まれることをお薦めします。しかし弱者であるゼロ時間契約労働者への賃金支払いを滞らせたり勝手に削ったり、アマゾンの倉庫では休憩も取れずトイレにも行けないなど本当にひどい状況のようです。

年賀状を読んでいたらOちゃん結婚式されたそうで、おめでとうございます!このブログも読んでくれているようでありがとう!

 

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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