金次郎、妻と共に隅田川に架かる橋を渡る

最近は健康増進の目的で妻と共に家の近所をよく散歩しています。この地域に越してきてからもう15年になりますが、まだまだ歩いたことの無い路地がたくさんあったり、少し歩いているうちに意外な町に辿り着いていたりと結構新しい発見が多くて楽しいです。散歩ルートとしてはやはり近くを流れる隅田川近辺が解放感が有り、両岸に隅田川テラスも整備されていて歩きやすいのでよく行きますが、気合を入れて歩く際は隅田川に架かっている橋を渡ってどんどん進み、疲れてしまって帰りは地下鉄、ということもよく有ります(笑)。隅田川にはたくさんの橋が架かっていて、その日の気分と体調でどの橋を目指すかを相談するのですが、ちょっと我が家から徒歩圏内の橋について整理して書いてみたいと思います。興味の無い方には恐縮です。

上流から行きますと、中央区日本橋馬喰長で川を渡る浅草橋は隅田川でなく神田川に架かっており、この橋もよく渡るのですが今回は除外。ちなみに神田川は井の頭恩賜公園の井の頭池が源流でこの浅草橋を越えた直後に隅田川と合流して終わる全長24.6kmの一級河川です。井の頭池も小さくはないですが、神田川は水量も多いので枯れずに水をたたえ続けているのが不思議ではあります。

さて、先ず最初は新大橋(170メートル)です。中央区日本橋浜町から橋を渡ると江東区森下で新しいマンション群に混じって昭和っぽいお店も立ち並んでいて懐かしい雰囲気のエリアです。先日歩いた際は清澄通りとの交差点にある町の鶏から揚げ屋さんで買い食いをしてテンション上がりました。その次の橋は清洲橋(186メートル)になります。中央区日本橋中洲と江東区清澄を結ぶ橋であり、なんと清澄と中洲からそれぞれ一文字ずつ取って清洲橋というネーミングになったようです。てっきり織田信長の清洲城と関係が有るのかと思っていましたが、よく考えるとそんな筈無いですね。清洲橋の中央区側の袂は「白鳥とコウモリ」(東野圭吾著)の殺人現場となっており(笑)、一方で江東区側の袂にはケーキ店アンテノールの工場が甘いニオイを振りまいていて、デパ地下などで買える通常のケーキに加え、規格外製品を安く売っていてオトクです。少し歩くと四季の移ろいを感じられる清澄庭園も有り風情が楽しめます。その次の橋は人形町通りから水天宮の交差点を越えた先の隅田川大橋(385メートル)で東岸は中央区日本橋箱崎町、西岸は江東区佐賀となります。橋の上層部は高速道路になっていて全体の構造も大きく橋長も他の橋と比較して長めで、高さも有って非常に見晴らしの良い立派な橋です。橋の両側に有る歩道も広くて歩きやすいので散歩ルートには好適でお気に入りの橋です。

更に下流に進むと永代橋(185メートル)で、中央区新川と江東区佐賀/永代を繋いでおり、その名に由来する永代通りが通っています。オリンピック期間中は五輪色にライトアップされていて写真を撮っている人が結構いました。直木賞作の「星落ちて、なお」(澤田瞳子著)に豪商鹿嶋家当主鹿嶋清兵衛の本宅が有ったということで永代橋の袂の描写がよく出てきていたのを思い出しました。江東区側は門前仲町で商店街には謎の演歌が流れるなど、森下同様昭和の雰囲気が残る地域になっています。次は中央大橋(211メートル)で、八重洲通を通しており、東岸は中央区新川、西岸は中央区佃となり、ここから両岸共に中央区となっています。なんと隅田川はフランスのセーヌ川と友好河川になっているようで、1993年に中央大橋が竣工した際に当時パリ市長であったジャック・シラク氏(のちに大統領)より記念の彫像が贈られたとのことです。今度探してみよう。ここから先はちょっと徒歩では辿り着けない距離なのですが、次は佃大橋(476メートル)となり、隅田川右岸は北が中央区湊、南が中央区明石町、左岸は中央区佃、南が中央区月島となります。近辺は高低差が大きく、東京マラソンの難所の一つともなっています。そして、勝鬨橋(246メートル)、築地大橋(245メートル)と続いています。折角なのでいつかこれらの橋も徒歩で渡って制覇してみよう。

さて随分前置きが長くなりましたが本のお話です。数年前に話題となりましたが、「ありえないほどうるさいオルゴール店」(滝羽麻子著 幻冬舎)は北国の小さな町(小樽でしょうか)の不思議なオルゴール店を偶然訪れた人々が、他人の心に流れる音楽を聴くことができる謎の店主との出会いを契機に、その音楽と共に呼び覚まされる、心の奥底にしまい込まれていた記憶と向き合い、本当の気持ちや為すべきことに気づく、という、所謂〈泣ける話〉です。聴覚に障害のある子どもと母親、バンド活動に青春を捧げたものの進路についての葛藤に苦しむ女子大生たち、長年連れ添った妻が病に倒れ途方に暮れる夫など、こじらせてしまった心を抱える人々の素直に思いを伝えられないもどかしさを音楽が軽々と解きほぐしていく様子に読み手の心も救われます。7作の短編が収められており、7回泣ける、との売り文句にも違和感無しの秀作でおすすめです。

「ありえないほど~」の最後はオルゴール店が遠い南の島に移転してしまったという終わり方でしたが、ついに続編の「もどかしいほど静かなオルゴール店」(同)が出たので早速こちらも読みました。舞台は一転沖縄の離島となり、悩んで自分を見つめ直したくなった人々にはうってつけの場所であり、店主のスーパー聴覚がまたも次々と威力を発揮するのかと思いきや、もう既にオルゴール店そのものが人々が心を通わせる触媒のような存在に進化したためか、実は音楽は前作ほど存在感を発揮しません。とは言え、同じく7作の短編が連作的に構成されていたり、北の町で密かに店主に心を寄せていた女子や、大人になり成長した聴覚障害の子供など、前作との繋がりの有る登場人物が不意に出てきたりして、ストーリーに奥行きが出てより物語に入り込みやすくなっています。そのおかげもあり、より泣きやすい仕上がりになっていますね(笑)。ジミ・ヘンドリクス、カート・コバーン、ジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズと何れも27歳で非業の死を遂げたスターについての印象的な語りから始まる、同じく27歳でクスリで転落したロックスターの生き様を描いた「星空」が金次郎は好きでした。

「透明な螺旋」(東野圭吾著 文芸春秋)はドラマ新シリーズが近日放映と発表された天才物理学者湯川学が活躍するガリレオシリーズ第10作の最新長編となります。読み進めるうちにこのよく分からないタイトルの意味が次第に明らかになっていくのでふむふむという感じです。トリックや謎解きの巧みさというよりは、湯川の過去が明かされる展開に焦点が当たる後半となりますが、それだけで本シリーズの愛読者には読まない選択肢が与えられないという意味では若干商業主義を感じなくもないですね。

この人が怪しいという直感は全てミスリードの餌食となり、自分の中で納得したストーリー展開は常にどんでん返しで裏切られる、というのが道尾作品の特徴ですが、「雷神」(道尾秀介著 新潮社)も読んでいるうちにいつの間にかそんな自己否定精神がデフォルトになってしまう恐ろしい作品です(笑)。漢字パズルはややどうなのか、とは思うものの、複雑なプロットを構成する要素の一つと考えれば許容範囲内ですかね。家族愛や思いやりというテーマに関するメッセージは伝わるのですが、やっぱりちょっと暗いので次作では明るくてポジティブなストーリーを期待したいところです。

シリーズものが好きな金次郎ですが、岩波の「ファーブル昆虫記」(完訳)全10巻を読み始めました。いつもこのブログのチェックを妻に頼んでいるのですが、彼女は強烈な虫嫌いなので感想を書く場合は自分で誤字脱字を完璧に修正する必要があり悩んでおります。

 


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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