金次郎、「アジアの隼」(黒木亮著)を読み出張意欲を掻き立てられる

在宅勤務が長期間続いてずっと家に閉じこもっていることが多かった時期に、少しでも外の空気を感じたいと、妻に〈屋外〉扱いされ、薄汚れるにまかせていた自宅マンションのベランダを少しずつきれいに掃除し、快適空間となったベランダで読書をするベランダ活動(ベラ活)が小さなマイブームとなっておりました。主に、ベランダの手すり、プランターが置ける仕様となっている外壁の天板、外壁の内側、ベランダを取り囲む壁のタイル部分、掃き出し窓のガラス部分などを雑巾でごしごし拭くだけなのですが、中央区は一般道の交通量も多く、近くを高速道路が走っていることもあって、気を抜くとすぐにPM2.5的な汚れが積もって黒ずんでざらざらした感じになり不快ですので、週2回程度は活動するようにしていました。掃除あるあるで、活動しているうちにどんどんきれいにしたい場所が増え、ベランダの床部分、排水溝、ベランダ排水用のパイプ、非常脱出用の避難梯子のカバー部分もきれいにし、積年の汚れにまみれたエアコン室外機も少しは触れてもいいと思えるぐらいの状態まで持っていくことができました。

そして最後に残ったのが、室外機の向こう側のちょっと人が入り込みづらい空間のタイル部分で、風通しも悪く、日光も当たらず薄暗い場所で、そもそもそこでは絶対に活動しないために全く気が進みませんでしたが、コンプリート欲に負け、意を決して先週末に掃除に着手いたしました。長期間さぼってきたために廃屋のような頑固な汚れがこびりついており、なかなか大変な作業でしたが、どうにかあと1回死ぬ気でやれば妻の機嫌を損ねた際に室外機の陰に隠れられる程度の状態にはなったのでしめしめと思い満足して部屋に戻りました。しかし、その満足感も束の間、なんとなく違和感が有るなと思ったら、もう11月になっているというのに、なんと、今年初めて蚊(あるいはブヨ)に手首をしっかりと刺され激しいかゆみに襲われ苦しむ事態となってしまいました。いったいいつからこの数年掃除をしていないベランダの日陰に潜んで金次郎の気まぐれを待っていたのかとその執念に感服する一方、更に刺されることを恐れるあまりベラ活に躊躇するようになってしまい、かと言って殺虫剤はベランダがベトベトに汚れてしまうので撒きたくない、というジレンマにがんじがらめとなり、せっかくのマイブームに水を差される残念な結果となってしまいました。このままではいけないと、先ずはこの苦しみをプラスに転じるべく、そう言えばということで最近ネットで話題となっていた虫刺され治療法を試してみることにしました。皆さんは既にご存知なのかもしれませんが、その方法とは、ドライヤーでの熱風による解毒治療!清澄庭園の近辺でブヨにやられた妻も試して効果が有ったとしきりに薦めてきますので、その非科学的さに半信半疑な上に何となく熱で炎症になって化膿してしまうリスクが思い浮かび躊躇したものの、最悪ブログのネタになるからいいやと思い切り、サロン仕様の強力ドライヤーの最強風力で患部を繰り返し激しく加熱しました。明らかにかゆい方がマシなのではと心から思うほどの異常な熱さに数秒耐えるのが限界で、アチー!という絶叫を何度も響かせた挙句放心状態でドライヤーをオフにすると、あら不思議、それまで猛烈にイライラさせられていたかゆみを全く感じません。試しにチョイチョイと刺激を与えてみてもかゆみが復活することはなく、N数たったの2ではありますが、アレルギー反応を引き起こす蚊の毒素が43℃以上で分解するという眉唾ネット情報は金次郎夫妻による人体実験において100%実証されました。良い子は危険なので真似してはいけませんが、大人の方は、あくまで慎重に、一度トライされることをお薦めいたします。でも、こんな時期に蚊に刺される間抜けは金次郎ぐらいでしょうから、皆さんが試されるのは来年ですね(苦笑)。

さて今回は先ず「アジアの隼」(黒木亮著 祥伝社)の紹介です。90年代半ばの成長ブームに沸くアジアが舞台で、ベトナムでの火力発電所入札という一大ディールをめぐる外銀、邦銀、証券会社、商社入り乱れての興亡をメインに、97年以降のアジア通貨危機、バブル後の相次ぐ邦銀破綻、賄賂が横行するベトナムの近代化停滞などをかなり事実に即して生々しく描いた秀作です。主人公は日債銀がモデルの長債銀のハノイ事務所開設要員として現地に赴任しますが、物事が全く進まないベトナムwayに辟易としつつも何とか現地に適応して仕事を前に進めようとする様子に大変共感しました。後半では、銀行が破綻の淵に追い込まれながらも必死で金策する模様が極めてリアルに描写されており、その危機感、諦観、あがきたい気持ちが入り混じる様子が臨場感をもって伝わってきます。

97年当時まだ駆け出しのビジネスパーソンであった金次郎は、アジアショックの荒波に揉まれるスタートラインにすら立てていませんでしたが、それでもアジアの混沌とした成長に向かうエネルギーの一端ぐらいは垣間見れる立場でしたので、営業に出てがむしゃらに商売を増やそうとしていた頃を懐かしく思い出しました。また、新興国に出張した際にいつも感じていた、リスクや想定外のトラブルを恐れず商売チャンスを掴むべく挑戦しようという高揚感を思い出し、改めてコロナ禍の落ち着きと渡航規制の緩和を心から祈りたい気分となりました。残念ながら出張でベトナムに行ったことはありませんが、雰囲気はフィリピンに近いという感覚で、マニラの空港からホテルに向かう道で銃を持った暴徒が道路を走り回っている場面に出くわしかなり怖かったことを思い出して今更ながらぞっとしました(苦笑)。

「うらんぼんの夜」(川瀬七緒著 朝日新聞出版)はしきたりと体裁にがんじがらめに捉われた旧弊な農村村落の地蔵信仰に秘められた怨念を描くホラーサスペンス小説です。ただ、禍々しいプロローグから一転、第一章ではまたスクールカースト的なお話かと若干辟易する始まりで眉を顰めましたが、話は全くそっちの方には行かないポジティブサプライズで、どろどろと粘着質な田舎の密過ぎる人間関係とそれに反発する主人公奈緒のコントラストが際立ってなかなか面白い展開でした。金次郎の父方の田舎もかなり山間の村落で、実際にそこに住んで体感したわけではありませんが、親戚間で交わされる噂話などからそこはかとなく感じていたどろどろさを思い出し、あれはそういうようなことだったのかと腑に落ちながら読めたのでリアリティ抜群でした。物語全体を貫く謎も最後までいい具合に引っ張られておりreadabilityは高いですし、何と言っても農業の本質をしっかりと押さえている奈緒のスーパーアグリJKぶりが強く印象に残る作品でした。

「JR品川駅高輪口」(柳美里著 河出書房新社)は米国で賞を取った「JR上野駅公園口」(同)同様著者の山手線シリーズの作品で、普通の女子高生が自殺サイトで仲間を募るというシリアスな展開のお話です。自殺願望を日常と地続きの誰しもが感じる陳腐としてあっさりと中立的に描く一方で、死にたいと思ってしまう自分は不幸だ、そして不幸だから死にたい、という思考の負のスパイラルを静かに、しかしながら断固として否定しているところに前向きな希望を見出せるお話だと感じました。「JR上野駅~」が過去の回想の中で主人公に死を決意させた瞬間がどこに存在していたのかを考えさせられるという、かなり絶望的な内容だったので、金次郎としてはこちらの方がまだ読み易いかな、と思いました。

ここまで書いてきて何なのですが、手首が少しかゆいような・・・、気のせいかな(笑)。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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