金次郎、かつて訪れたモーリシャスに思いを馳せる

金次郎は2002年に結婚しましたので今年は20周年イヤーとなります。その年にシンガポールに駐在となりバタバタした関係で新婚旅行は翌年の2003年にずれ込みまして、折角シンガポールにいるのだから日本からはアクセスしにくい場所に行こうとアフリカの島国モーリシャスを訪問することにしました。金次郎もそれまで全く知らない国でしたので皆さんにもあまり馴染みが無いと思いますが、広さはだいたい東京都ぐらい、人口は120万人程度のアフリカ地域に属する小国です。仏領、英領時代を経て1968年に独立していますが、アフリカ大陸には近いもののインド洋に位置しているためか国民の過半がインド系ということで、確かにホテル従業員、タクシー運転手、お店の店員など全てインド人だった記憶が有ります。旅行全体を通じ、そのインド人が若干というかかなりアジア人を差別していると時々感じたのはまぁよくあることで今となっては旅の一幕と思えるのですが、とにかくこの旅で耐えがたく辛かったのは往復のモーリシャスエアーがヒマラヤかと思う程に極寒だったことです。空調が悪いのかどこかに隙間が空いていたのか分かりませんが、シンガポールからの7時間、眠ったら死ぬのではないかとの恐怖に怯えつつ妻とガタガタ震えていたことをよく覚えています。少し学習して帰りのフライトでは夫婦で大量にもらったブランケットにくるまってどうにかやり過ごすことができましたが、これから行かれる方はどうかお気を付けください。もう改善されているやもしれませんが。

モーリシャスの首都はポートルイスという町で近くの丘から一望できるのんびりした雰囲気のなかなか穏やかで落ち着ける場所でした。ホテルはそんなに高くなかったにも関わらず、お風呂のようにありえないほど透明のプライベートビーチを擁する非常に素晴らしいリゾートホテルで旅の気分を満喫できました。多分ここだと思うのですが何分20年前なので自信無しです。→The Residence Mauritius ホテルでは、プールサイドでパンケーキの朝食をパンくずをもらいに集まってくる小鳥に囲まれて食べたり、薄暗いムーディーなレストランで豪華なディナーを楽しんだり、ビーチのリクライニングチェアに寝そべってフルーツをつまんだりスパでマッサージを受けたりと、当時の我々には分不相応な遊びを堪能いたしました。町遊びも楽しめるところで、運転手さんがピカピカに磨いたご自慢の自家用車でタクシー営業をしており、その車で色々な場所に連れて行ってもらうスタイルとなっており、結構長い時間を共にする運転手さんの個性が旅のスパイスになってもいます。ある日お願いした運転手さんは真っ赤なBMWで現れ、俺の車イケてるだろうオーラをビシビシ出してくる感じだったのですが、ショッピングモールから駐車場に戻ってみると、有り得ない量の鳥フンにまみれてしまった赤BMを必死に拭いている彼の姿に遭遇し、何ともいたたまれない気分になったことを鮮明に覚えております。この鳥フン事件も印象的だったのですが、夫婦で未だに笑い話として繰り返し思い出すのが船着き場欄干事件です。ちょっと大きな滝が見どころとのことで、それを見に沿岸の小島までモーターボートで行ったのですが、ツアーが終了して本島の船着き場に戻ってきた際に、船から降りようとした金次郎がちょっとバランスを崩した拍子に桟橋の欄干らしきものをガシっと掴んでぎりぎり転倒を免れました。やれやれとホッとしつつ何だかワシャワシャして変だなと思った瞬間、掴んでいたものが船のへりに座っていた乗組員のおじさんの頭部だと気づきパニック状態となりました(笑)。よく見てなかったのは本当に申し訳無かったのですが、ちょっと茶色くて円柱っぽい感じがまさに欄干そのものでした。頭頂部を神聖視する文化もありますのでどうなることかと思いましたが、そのおじさんも他の乗客も皆爆笑となり事なきを得て本当に良かったです。他にも書けそうなことが有ったような気がしますが、長くなりましたのでまた別の機会に思い出したら紹介することにします。

さて本の話ですが、先ずはアカデミー賞受賞記念ということで「女のいない男たち」(村上春樹著 文藝春秋)を読みました。「ドライブ・マイ・カー」を含む6編の短編を集めベストセラーとなった作品ですが、やはり村上先生は短編が素晴らしいと再確認いたしました。長編になると、謎の登場人物や不思議な穴や通路、その先に広がるパラレルワールドなど、物語世界を理解する上での自分の想像力のキャパを大きく越える展開が頻出し、未だ春樹歴の浅い金次郎の実力では十分にその世界観を堪能することができません。ところが短編になると、長編で感じる意味不明さが影を潜め、思わず唸らされる洗練された文章や魅力的な人物描写、あっという間に物語世界に引きずり込まれるストーリー構成力が際立って感じられ、一瞬も集中が途切れることなく読み進められるので楽しむ読書としては最高だと思います。妻を失った性格俳優の苦悩を描いた「ドライブ~」はすっかり西島さんのイメージで読み進めましたが、この話がどうやったらそれなりの尺の映画になり得るのか興味が湧いたのでどこかで観てみようと思いました。必死で学習し身に付けた完璧な関西弁を操る生粋の東京人と関西弁を一切使わない関西人の青年の友情を描いた「イエスタデー」が一番好きですが、思春期にありがちな価値観や自己認識といった物差しの崩壊を引き起こす恋煩いが中年男に起こったらどうなるのかを描いた「独立器官」も非常に興味深く読みました。

趣は全く異なりますが「コミュ障探偵の地味すぎる事件簿」(似鳥鶏著 KADOKAWA)はコミュ障大学生の藤村が、その性格ゆえに自己紹介、学食、セレクトショップ、カラオケなどなどの学生生活の様々な場面で普通の人が経験しない苦労や悩みに苦しみつつ、コミュ力の高い人々に心の中で毒づきながらも、その推理力で身近な事件を解決に導くというなかなか面白いコンセプトのミステリーでした。タイトル通り、最初の事件は教室に置き忘れられた傘の持ち主を推理するというお話で有り得ないほど地味ですが(笑)、さすがは似鳥先生、笑える注釈を挟み込みつつどんどん物語に引き込んでいく手腕は相変わらずレベルが高いです。

「絞め殺しの樹」(河崎秋子著 小学館)は北海道を舞台に気丈な主人公ミサエの人生を描いた本当に暗くて救いの無い一代記です。屯田兵としての誇りと旧家としての傲慢さで殺伐とした吉岡家での厳しく苦しい奉公時代、昭和の時代に女性として働くことの大変さに向き合い悲劇に苦しむ保健婦時代と、何で自分はこの本を読んでいるのだろうと何度も疑問に思う悲惨さでそれに北海道根室の厳し過ぎる自然環境が追い打ちをかけるという徹底ぶりで念が入っています。ドラマ「おしん」のような成功譚も無くハピエン主義のうちの妻には絶対読めない内容なのですが、強いがゆえに周囲に寄りかかられ続ける宿命的な業にひたむきに耐え日々を送るミサエの姿に最終的には感動を覚えてしまうので河崎先生の思惑通りに術中にはまってしまったとの一抹の悔しさを覚える読後感となっております(笑)。

これからGWに入りますので、意を決して次回はヘンリー・キッシンジャーの名著「外交」の紹介をしようと思います。できるかな。。。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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