金次郎、御徒町の名店で同僚とお寿司を堪能

このところ出社や飲み会の機会が徐々に増えてきており、ようやくブログのネタ不足から脱却できると期待していたのですが、なかなかここで紹介できるような刺激的なエピソードは簡単には生まれず(いつも刺激的かどうか微妙ですがw)、今回はネタはネタでも先日会社の同僚と食べに行ったお寿司について書こうと思います。金次郎がシンガポール駐在時代に行きつけであった寿司店は、20年前の当時は未だそれほどメジャーではなかった日本直輸入ネタを出してくれるところで、海外にいるとは思えぬクオリティを堪能でき祖国を感じられる憩いの場でした。日本に本帰国する際にそこの大将から「あの店の大将は寿司(とゴルフw)のことしか考えていない」と太鼓判で紹介していただいたのが今回訪問した御徒町近くの鮨 一心です。このお店は江戸前寿司発祥の名店として有名な柳橋美家古寿司の四代目であり寿司の神様と呼ばれた加藤博章さんの最後の弟子にあたる渡辺佳文さんが初代店主を務めたお店です。その後渡辺さんは銀座で鮨 わたなべを開店されましたが、二代目の大将に代替わりした一心も江戸前寿司の伝統を受け継ぐ名店として繁盛しています。一心のカウンターには上記の寿司の神様の写真が飾られ寿司の出来栄えを見守っておられますが、ちなみにこの神様は大ヒットしたNHKドラマ「イキのいい奴」で小林薫さんが演じた主人公のモデルとなった方としても有名です。更に言うと、この「イキのいい奴」のベースとなっているのが「神田鶴八鮨ばなし」(師岡幸夫著 新潮社)という本なのですが、この本は〈寿司の神様〉の下で修業しその後神保町に神田鶴八を開いた著者による、親方とのエピソードやお寿司についての様々な知識、ひいては戦後間も無い頃の柳橋花柳界の雰囲気までを一流の職人の視点で振り返りつつ描いたエッセイで、寿司好きにはたまらない内容に加え人生訓としても読めるおすすめの作品となっております。ご興味有る方はぜひ続編の「神田鶴八 ちょっと小粋な鮨ばなし」(同 草思社)と合わせてお読み下さい。

前置きが非常に長くなりましたが、当日はいつも通り元気良く気遣いの行き届いた応対で迎えていただき、旨すぎる生ビールで乾杯した後、〆サバ・茹でダコ・イシダイ・カツオ・何かの貝(遺憾ながら種類を忘れました)をお刺身で出してもらい、そこから愛媛の冷酒を飲みつつアジのなめろうや平貝の磯辺焼きを堪能いたしました。どれも美味しかったのですが、特にイシダイの食感と脂の乗りが最高だったのと磯辺焼きの程よい弾力と海苔のパリパリ感も相変わらずの旨さでした。そしていよいよ主役のにぎり寿司ですが、一貫ずつ丁寧に供されるお寿司は赤酢ベースのシャリとネタのバランスが絶妙で勿体なくて飲み込みたくないものばかり。以下が美味しくいただいた寿司一覧となります。①コチ昆布〆②〆アジ③漬けマグロ④中トロ⑤ホタテ⑥イクラ⑦卵⑧ボタンエビ+頭焼き⑨アナゴ。どれか一つ挙げろといわれると悩みますが、追加注文した⑧ボタンエビの柔らかくて密度の高い食感と濃厚な味わいは素晴らしかったと思います。珍しい②〆アジも大葉の風味がぴったりの取り合わせでしたし、③漬けマグロから④中トロへの流れも月並みですが同じ魚とは思えぬ食感と味わいの変化を楽しむことができました。こんなに書いてしまうと校閲担当の妻に自分ばかり美味しいものを食べてずるいと文句を言われること必定ですので(笑)、きちんと名物ばらちらし寿司もお土産に購入し絶品ぶりを二人で楽しみパーフェクトな一日となりました。でも、また直ぐにでもお寿司食べたいです。

さてもはや何ブログなのか微妙になっておりますが、本題の本の紹介です。非常に引用されることの多い名作であるにもかかわらず未読であった「ドリアン・グレイの肖像」(オスカー・ワイルド著 岩波書店)を遂に読了いたしました。舞台は19世紀末のイギリス、純粋な若者であった金髪碧眼の美青年ドリアン・グレイが、友人の画家であるバジル・ホールウォードの絵のモデルになっている際に逆説家で世の中を穿ちまくったようなことしか言わないヘンリー・ウォットン卿の巧みな言葉に煽られ感化されてしまい、その後は道徳的堕落の一途を辿るというストーリーになっております。人間は歳を取れば取るほど内面が見た目に表れると言いますが、このお話ではドリアン本人は外見的には全く歳を取らず若いままの容姿を維持し、バジルが彼を描いた肖像画だけが密かに彼の放埓な人生を反映して醜く変貌し続けるという設定がミソとなっています。ヘンリーの影響下で悪徳の人生を送りつつも、醜く変貌する肖像画を目の当たりにすることで自らの悪徳性に苦しむというややこじらせたドリアンの良心の在り方が本書のテーマの一つとなっていますが、金次郎はこの本を若い頃に読まなくて良かったと心から思いました。なぜかというと、恐らく若かりし金次郎はそのちょっとひねくれた性格から、ヘンリーの常識にとらわれていないように映る皮肉屋ぶりにかなり傾倒し、下手をするとその真似をして大多数の友人を失った可能性が高いと思われるためです。唆されるドリアンというより、唆す方ですね(笑)。今では50を前にして若干分別も出てきたのでそんなことにはなりませんが、現代の価値観を基準に読むと多大なる偏見を含む内容ではあるものの、心を動かす言葉の力に溢れた作品だと思います。明示的ではないもののBL三角関係的な雰囲気は現代の最先端ですし(オスカー・ワイルドは性的マイノリティであることをカミングアウトした近代最初の作家といわれています)、一読しただけではよく分からない芸術論についても語られているようなので、これもまた暫くして再読せねばと考えております。一時ドリアンが改心しかける場面が有るのですが、以前紹介した「リンゴの木」がモチーフになった描写となっており、読んでいて良かった!と思いました。

「ミーツ・ザ・ワールド」(金原ひとみ著 集英社)は苦手な飲み会の後に酔いつぶれゲロまみれになっているところを美形キャバ嬢ライに救われたヲタク腐女子のユカリンが、次第に彼女を大切に感じるようになる一方で、この世界から静かに消えることこそ幸福であり自然であるというライの揺るがぬ死生観と自分の価値観のギャップに苦しむようになっていくというなかなかに規格外のストーリーになっています。どんなに相手を思いやって寄り添おうとしても、結局はそれが相手の幸せを願った行為であっても自分の求める幸福の形に縛られてしまうという人間関係の限界を極論的な状況で提示し、人間は皆究極的には孤独であるという絶望的な事実を突き付けられる内容にやや凹みます。とはいえ、もう一人の主要登場人物である歌舞伎町ホストのアサヒのキャラが深いのか浅いのか分かりませんが大変魅力的ですし、とにかくたくさんの情報と登場人物の思いを伝える濃度の高い文章をきちんと読み易くまとめる金原先生の才能に脱帽です。似たようなテーマの本として最近読んだものでは、「我々は、みな孤独である」(貴志佑介著 角川春樹事務所)は他者の不存在という違った形の孤独をミステリー仕立てで描いていてこちらもなかなか面白いです。

6月に友人と鮨 わたなべを訪問予定にしており、またお寿司の話を書いてしまうかもしれず、今からワンパターンなブログになることをお詫びしておきます、すみません(苦笑)。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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