金次郎、「幸村を討て」で真田家ものに初挑戦

6月に入り出社する回数が増え、会食の機会もそれなりに増えてきました。同僚は海外出張をどんどん再開していますし、逆に海外から日本に出張に来られる方も急激に増えているように思います。そんな中、最近何だか分からないが苦しくて仕方が無いというような、原因不明のストレスを感じどうしたものかと思っておりましたが、ある時ふとその理由に気づきました。このブログを書き始めたのが2019年の12月で、最初の頃は書き溜めていたネタや読書感想を活用してちょっと短めの投稿をしていたのですが、次第に感想のストックが尽きる一方で、誌面を埋めようと書き始めた読書と関係の無い思い出や過去の面白体験、折に触れての雑感などを適当に並べたよもやま話のボリュームがどんどん増えるという迷走が始まりました(苦笑)。ところが、色々と感想を聞いてみると、なんとそのよもやま部分しか読まないという謎の読者が結構多いことが判明し、それら読者への忖度から意外と書くのに時間を要するよもやま部分を捻りだすのに四苦八苦するという本末転倒の状態に陥り迷走の度を強めておりました。それなりの読書もしながらこのブログの定期的な発信が続けてこられたのは、ひとえにコロナ禍での在宅勤務と会食件数の激減で身支度+通勤時間と夜の時間を読書とブログにフルに活用できていたためだったわけですが、それに気付かず通常モードに戻りつつある中でもこれまでの読書&ブログ更新ペースを維持しようとした結果、どうにも時間が捻出できず、自分の生活がなんだか回っていないぞという焦りがストレスに繋がっていたと漸く自覚したという次第です。とりあえず読書量を減らすと時間に余裕は出るのですが、そうするとブログに書ける読書感想のネタも減るのでそれは避けたい、かと言って毎週読んで下さっている有難い読者の方のことを考えると頻度も落としたくない、と出口の見えない袋小路にはまり込んだ気分で地味に悩んでおります。思いつく解決策としては、①奇跡的に英語が上達して英会話レッスンの頻度を減らせる、②妻の股関節が更によくなってやや遠方の治療院に付き添う回数が減る、③睡眠時間を削る、④夜の会食を通じ刺激的なネタが大量に入ってきて悩むことなくよもやま話を短時間で仕上げられる、⑤ここで紹介したくなるような面白い本を注意深く厳選して読む、などが有りますが、体に悪いのでなるべく③は避け①②④が起こるよう天恵を待とうと思います。(笑)

ところで海外からの訪問者ということで、久々にシンガポール在住の友人と会い、以前ちょっとここで紹介した銀座の鮨わたなべにて旧交を温めました。さすがは寿司の神様の最後の弟子、〆アジに始まりアナゴで締める伝統的な仕事は勿論申し分無い上に、子持ち昆布のウニソースがけという創作スペシャリテが絶品で、還暦を過ぎても弛まぬチャレンジを続けられている親方の姿勢に感銘を受けました。もっと色々書きたいのですが、あまり書き過ぎると寿司ブログとなってしまうのでこの辺でやめておきます。我々が食事をしている間にうちの妻と彼の奥様はオンライン飲み会をして盛り上がっており、粋に寿司を食べてさっと帰宅したところ、帰ってくるのが早すぎると非難ごうごうでした。近いうちに心置きなく四人で集まりたいところです。

さて、この先を読んでくれている読者がどのぐらいいるか微妙ですが(涙)、本の話もさせて下さい。「古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで」(柿沼陽平著 中央公論新社)は最近結構売れた本で、紀元前後の古代中国人の生活様式を莫大な資料の緻密な読み込みを基に具体的に分かり易く記述してあるなかなか興味深い内容になっています。夕方から人々が飲んだくれている様子のみならず、口臭や体臭が人々の間でかなり気にされていたことやイケメンにファンが群がる光景などもかなり現代的で2000年ぐらいでは人間の本性は何も変わらないのだなとちょっと笑えます。既にマウスウォッシュ的なものが存在していたというのは驚きでした。併せて「古代ローマ人の24時間」(アルベルト・アンジェラ著 河出書房新社)を読んで比較してみましたが、この段階では建築やインフラの水準は圧倒的にローマの方が進んでいますね。上下水道や公衆浴場は素晴らしく整備されていてなかなかに高い生活水準が実現されています。不衛生でスラム的な性格も否定はできませんが、現代のアパートに相当する集合住宅インスラでの人々の暮らしぶりは効率的でさほどの違和感無くイメージすることができます。現代との違いは上に行くほど火事で逃げ遅れる確率が高くなるので価値が低くより貧しい人が住んでいる、というところぐらいでしょうか。高層階ではハトと一緒に暮らしているという記載にはやや嫌悪感を覚えましたが(苦笑)。

「幸村を討て」(今村翔吾著 中央公論新社)は「塞王の楯」(集英社)で直木賞を受賞した著者の最新刊で、謎が多く小説の題材になり易い真田一族に新たな視点で光を当てる意欲作となっております。あまりにもたくさん書かれているためか、読む前からやや食傷気味になり正直手に取る気がしなかった真田家ものですが、歴史上ややマイナーな人物をその時代を懸命に生きた紛れもない一人の主役として鮮やかに描き出す今村先生の手腕を信じて読んでみることにしました。物語は徳川家康、織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永といった様々な立場と思惑で大坂の陣に参戦した武将それぞれの視点から、その時々で万華鏡が映し出す映像のように見え方が変わり真意を掴みえない真田父子の姿と、期せずして彼らの企みに操られることになる視点人物との関りを描く構成となっていて、読者にも最後まで真田家の真の目的が分からないミステリアスさにページをめくる手が止まらなくなります。各視点人物の人間ドラマにも充分感情移入できる上質な入れ子構造になっていて、それぞれのクライマックスで全く違った意味合いで放たれる「幸村を討て」という叫びに凝縮された思いに何度も感動させられる秀作だと思います。更に、真田家の昌幸・信之・幸村も必ずしも分かり易く一枚岩というわけではなく、敵味方に分かれてしまったためにそれぞれの矜持やお互いへの複雑な心境を意を尽くして語り合える状況にない中でもあるビジョンの実現に向かって阿吽の呼吸でひたひたと突き進んでいく静かな迫力にも感銘を受け、著者に何度もやられているなと爽やかに負けを認められる作品でした。ちょっと長いですが、これはぜひ読んでいただきたい一冊です。

引き続きハトには襲来されておりませんが、忌避剤のハーブの匂いが強過ぎて時々吐きそうになります(苦笑)。1年ぐらい前に窓の外からする筈のないハーブ臭がするなと当時は不思議に思っていましたが、下の階の方の必死の戦いの痕跡だったかと今更気付き申し訳ない気持ちになりました。


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投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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