ニューヨークを舞台にダイヤモンドを巡る陰謀が繰り広げられる「カッティング・エッジ」を堪能

いよいよ今週から医療従事者の皆さんへのワクチン接種が開始されるようですが、妻に「ファイザーのワクチンはマイナス80度で保存するから、接種するときかなり薬が冷やっとするらしいよ。」と言ったら、かなりびびっておりました(笑)。それはさて置いても、もう少しワクチンについて説明が有ればいいのにとは思います。厚労省のHPを見れば書いてあるのかな。

さて、2月に入り、森会長の女性蔑視発言が取りざたされておりますが、英文の記事では、

Mr.Mori made a sexist comment.

のような感じで書かれます。少し、あれ?と感じますが、Sexistには名詞の〈性差別主義者〉という意味が有る一方、形容詞で〈性差別(主義)的な、性差別(主義者)の〉のような意味も有り、~シストというとナルシストやピアニストのように~な人というふうに名詞で使いがちな日本人にはちょっと違和感の有る形になっています。また、うっかり間違って、

Mr.Mori made the sexiest comment.

としてしまうと、森さんは最高にわくわくするような発言をした、となり意味がおかしくなってしまうので注意しましょう。(sexy【セクシーな、魅力の有る、わくわくする)の最上級がthe sexiestですね。)

言葉の形にこだわってしまう金次郎は、sexistが形容詞ということを知り、最上級はまさかthe sexistestなのか、と思い辞書を引いてみましたが、比較級・最上級の表現は見当たりませんでした。でも、似たような単語で同様に形容詞が有るracist【人種差別主義者(の)】には最上級でthe racistestと記載が有りましたので、恐らくそのように変化するものと思われます。でもよく考えると、差別主義は黒か白かしかないので、コンセプト的に比較級や最上級が存在することがそもそもおかしいわけで、若干マシな差別主義者がいるかのような誤った使い方をしないよう注意しようと思いました。

ここで本題ですが、全く何のきっかけも無く「カッティング・エッジ」(ジェフリー・ディーヴァー著 文芸春秋)を読んだところ、これがかなり面白くてはまりました。捜査中の事故による怪我の後遺症で四肢マヒに苦しむ天才科学分析官であるリンカーン・ライムが、僅かに現場に残された証拠から魔法のように犯人に迫るサスペンススリラーで、知らなかったのですが既に本作でシリーズ第14作とのこと。作品毎に一つのテーマを著者が徹底的に深掘りしてストーリーを作り込んでいるので、読後にはちょっと事情通になった気分にもさせてくれる、テーマ、スピーディーな展開、どんでん返しの連続と一粒で三度美味しい作品となっております。

本作のテーマはダイヤモンド。世界有数のダイヤモンド加工業者集積地であるニューヨーク47番街で最初の事件は発生しますが、稀少性の低い鉱物であるダイヤモンドを高く売りつける仕組みをどう作るか、価格が高いことそのものが価値の源泉になっているダイヤモンドの価格をどうやって高い水準で維持するか、に全てをかけているダイヤモンドシンジケートが絡んできて、スピードを上げながら物語がどんどん展開していく面白さに全く飽きずに一気に読めます。起こるはずの無い地震がニューヨークで発生したり、環境団体が登場したりと筋があちこちに飛ぶように見えて、最終的には気持ちよく全てが解決するので爽快です。また、10年前に旅行で行って気に入ったニューヨークの街並みが思い出されるのもまた良しでした。

向学のために、「ダイヤモンド 欲望の世界史」(玉木俊明著 日経BP)を読んでその後更に勉強したところ、価格が高いダイヤモンドは流通プロセスが非常に長く、キンバーライトと呼ばれる鉱石がロシア、ボツワナ、オーストラリア、南アフリカ、カナダ等で産出され、それがラフと呼ばれる原石となり、更にそのラフがインド、ベルギー(アントワープ)、アメリカ(ニューヨーク)、イスラエル等でカット&研磨され、改めてあの美しいブリリアントダイヤモンドとして販売・輸出されているというのを初めて知りました。なんとニューヨークの輸出の13%がダイヤモンドとのこと!

カノセシル・ローズが創業したダイヤモンドシンジケートの親玉であるデビアス(ダイヤモンドは永遠の輝き、で有名ですね。)が価格維持のための涙ぐましい努力を続ける一方で、同社が中国での合成ダイヤモンド生産の急増とその品質向上を受け、これまで頑なに拒み続けてきた合成品の取り扱いに踏み切り、2018年から新たなブランドを立ち上げており、今後ダイヤモンドマーケットがどう変わっていくのか非常に興味が湧くところです。

勢いに乗ってリンカーン・ライムシリーズを何冊か読んでみました。「ボーン・コレクター」(同)はデンゼル・ワシントン、アンジェリーナ・ジョリーで映画化もされたシリーズ第1作で、テーマは微細証拠の科学的分析を通じた真相の究明です。そんな些細な証拠からそんなことまで分かってしまうのか、という驚きの連続で、アメリカの科学捜査の最先端に触れられる興味深い内容になっています。映画ではアンジェリーナ・ジョリーが演じた長身、赤毛の元モデル鑑識刑事のアメリア・サックスとライムの出会いもなかなかに印象的です。

「エンプティー・チェア」(同)はシリーズ第3作でテーマは昆虫とアメリカ東岸の大湿地帯。以前このブログでも紹介したアメリカのベストセラーである「ザリガニの鳴くところ」(ディーリア・オーエンズ著 早川書房)の舞台である、ノースカロライナ州からバージニア州にまたがる広大なディズマル湿地帯の隔離された異世界感覚と、そこに暮らす多様な昆虫がこれまでのライム作品と違った雰囲気を醸し出しています。ホームグラウンドであるニューヨークを離れたライムがアウェイでもその天才ぶりを遺憾なく発揮する姿は圧巻です。今でも湿地帯は無法地帯なのか、ちょっとだけ見てみたい気もします。

シリーズ第4作の「石の猿」(同)のテーマは中国からの不法移民とそれを手引きするマフィアである蛇頭です。20年ほど前の作品ではありますが、往時の移民差別の実態が垣間見えますし、チャイナタウンの内情もなかなか面白い。中国人刑事とライムの友情が偏屈で証拠と事実しか信じないライムの心を解きほぐして、彼の死生観に影響を与えていく展開は、サスペンススリラーではあるものの、ドタバタだけでなく感動も同時に味わえる作品です。

観光業への依存度が高いニューヨークはコロナ騒ぎでかなりダメージを受けており、強盗や殺人などの犯罪が〈暗黒都市〉の印象だった1994年の水準まで悪化してしまっているそうです。早く色々元に戻って、また旅行に行ける日が来ないかなー。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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