大沢在昌作品の中で「新宿鮫」と双璧をなす代表作「狩人シリーズ」を紹介

そろそろ会社に少し顔を出そうかな、と複数の事業を経営する青年実業家のような感じで書きましたが、ただのテレワーク人材です(苦笑)。前回の緊急事態宣言の時同様に中途覚醒症状が発症し、上手くいけば21時就寝の3時起床、下手をすると22時就寝の2時起床、というようなぎりぎりの生活を送っております。あーよく寝たと思いながら目を覚まし、時計を見て1時だったときの辛い気持ちは人生で5本の指に入るぐらい厳しいものが有りますね。最近は、起きた際に聞こえる近くの高速道路の走行音(=交通量)でだいたいの時刻が分かるという特殊能力を身に着けましたが、全く役に立つ気がしません。

さて、大沢在昌先生といえば、以前このブログでも紹介した新宿を舞台にしたハードボイルド警察小説である「新宿鮫シリーズ」が有名ですが、商業的に疑問を感じるほど似通った内容を描いた「狩人シリーズ」なる作品群も手掛けられており、金次郎はこちらもかなり気に入って読んでいます。「新宿鮫シリーズ」ではキャリア警察官であるにもかかわらずある事情から出世も異動もかなわない境遇に追い込まれた鮫島が漠然とした屈託を抱えながら、警察という巨大組織の不条理な圧力に抗いつつ様々な事件を解決していくという、鮫島個人に焦点が当たった鮫島目線のストーリーになっています。一方、「狩人シリーズ」では中年太りで風采の上がらないノンキャリア刑事である佐江が、期せずして得た相棒とその相棒が持ち込んでくる面倒な事件にしぶしぶながらも関り、大変危険な目に遭いつつも事件を解決に導くという展開で、やや達観気味の佐江が相棒と結ぶ人間関係とそれが故に悩む佐江の葛藤を軸に物語は進んでいきます。鮫島と違い、佐江のスタンスは受け身でやや引き気味であり、作中での描かれ方もワンオブゼムという感じなのですが、逆に金次郎はその全体を見通す大局観や状況に応じたしなやかさが好きだったりもします。

まぁ「新宿鮫シリーズ」全11巻と「狩人シリーズ」全5巻を読破して、ようやくこの微妙な違いを朧気に理解したというのが正直なところですので、初読の方にはどちらもほぼ同じ印象になると思われます。より多く死にかけるのは佐江、意外にも恋愛がストーリーの重要な要素となっているのが鮫島、というのはちょっとしたポイントかもしれません。

では、「狩人シリーズ」の簡単な紹介と金次郎による独断評価です。

◆「北の狩人」(幻冬舎、以下全て同じ 上巻下巻):北国の訛の有る、明らかに尋常でない雰囲気でしかもかなり強い若者が新宿に現れ古い事件について尋ね回るところから始まるこの物語は、プロットもよく練られていますし、登場人物も魅力的で、1990年代の新宿の猥雑さも鮮やかに描かれているということで、その後シリーズ化されたのも頷ける秀作です。宮本という登場人物が非常にいい味を出しておりますし、主人公である雪人の恋愛も古風で良し。(評価★★★★☆)

◆「砂の狩人」(上巻下巻):ある事件を起こして警察を去ることになった元凄腕刑事の西野が、警視庁上層部の指名で暴力団組長の子供ばかりを狙った連続殺人事件に関わることになり、新宿署の佐江と協力しつつ真相に迫るというストーリーですが、前作同様巧妙なプロットやスピード感の有る展開が素晴らしいのは勿論、本作はとにかく全編を通じて〈哀しみ〉に溢れていて西野という人間が非常によく描けている点が印象的です。色々と辛い展開も有りますが、金次郎は5作中この作品が一番気に入っております。(評価:★★★★★)

◆「黒の狩人」(上巻下巻):中国人ばかりが被害者となる迷宮入り寸前の連続殺人事件に駆り出された佐江が、非常に地味で素性不明の中国人協力者毛(マオ)と組まされて捜査を開始するところから静かに始まるこの作品は、その後外務省、公安、中国国家安全部を巻き込んだ大それた話に展開していきます。佐江、毛(マオ)とチームのように捜査にあたる、情報収集に人生を捧げている外務省職員の野瀬由紀は最新刊の「冬の狩人」にも登場していますが、こういうところはシリーズ作品の醍醐味ですね。(評価:★★★★☆)

「雨の狩人」:暴対法の施行により暴力団が地下に潜り、その活動が専ら堅気が経営している一見普通の企業で行われるようになっているとの時代背景を軸に、変わりゆくヤクザ世界の最先端を大胆に描いたこの作品は大沢先生の面目躍如というところだと思います。捜査一課谷神刑事と佐江のお互いを認め合う感情、謎のタイ人少女プラムの存在、そしてKプロジェクトとは何なのか、という複数の筋を巧みにdenouement(大団円=英会話で習いましたw)に向けまとめ上げる技術は、相変わらずのスピード感と合わせ流石の大沢作品です。(評価:★★★☆☆)

「冬の狩人」:狩人シリーズは6年毎に刊行されていて待ちに待った本作がようやく昨年11月に発売されました。今回はメインの舞台が新宿でなく、「新宿鮫シリーズ」7巻の「灰夜」的な位置づけです。H県にある企業城下町の本郷市で3年前に発生した殺人事件の犯人に関係する情報を持っているという女が何故か佐江に身柄の保護を求めるところから物語は動き出しますが、本作はアクションはやや抑えめで少し休憩という感じの内容です。最早暴力団対応の達人と化した佐江が師匠ポジションで若手脱サラ刑事を指導し成長を見守るというややハートウォーミングなところも過去4作とは違う雰囲気ですね。1956年生まれの大沢先生も6年後には古希を迎えられますので、今回一回休みで、いよいよ次作で殉職か?などと縁起でもないことを考えてしまいました。新宿路地裏のバーで「新宿鮫」とストーリーがクロスオーバーする場面が有るのですが、まさか次作は鮫島と共演か?でもそっちは光文社さんだから無理か?など考えるのも楽しい。(評価:★★★☆☆)

任侠ものつながりでもう少し紹介すると、「孤狼の血」(柚月裕子著 KADOKAWA)、「凶犬の眼」(同)、「暴虎の牙」(同)の三部作はなかなか面白かったですね。本場(?)の広島を舞台に、破天荒なくされ刑事である大上の秘めたハートと活躍を描く内容で柚月先生の代表作といえると思います。弟子の日岡との師弟愛も良しです。

ハードボイルド系は人気が無いのかブログのPVが伸びにくい傾向にありますが、気にせず面白かったと思う本を紹介し続けようと思います。「闇の自己啓発」の課題図書遂に読了し、いよいよ本編に進みます。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

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