いつの間にか読書の秋が始まり、慌てて文学女子に本を紹介

金次郎がまだ若かりし頃、政界ではYKK(山崎拓・小泉純一郎・加藤紘一)が新世代のリーダーとしてもてはやされておりました。それがいつの間にかNが増えてNYKKになったので、Nこと中村喜四郎代議士とはどんな人なのか、と興味を持ったことを覚えています。その後彼は若くして建設大臣となり、建設族のプリンスとして将来の総理候補と目されるまでになったのですが、突然のゼネコン汚職スキャンダルで逮捕、起訴され、最終的には有罪が確定して服役の憂き目を見るというアップダウンの激しい半生だったと記憶していました。

金次郎はその後政治に興味を失ってフォローしていなかったのですが、最近中村喜四郎の名前をちょくちょく見るなと思い調べるとなんと未だ連続当選中で、無所属で国会議員を続けられていると知り驚きました。そこで、昨年刊行された「無敗の男 中村喜四郎 全告白」(常井健一著 文芸春秋)を読んでみたのですが、中村代議士の政治に拘り続ける執念がとにかく凄くて圧倒されました。格差是正を掲げて70歳を過ぎても打倒自民党を目指して野党共闘を働きかける意気軒高ぶりや、自らバイクで地元を走り回る〈選挙の鬼〉の姿は故田中角栄を彷彿とさせ印象的です。人のいないところを選んで辻説法するとか、組織的な選挙活動はしないなど、選挙に関する逆張りの理論もなかなか面白いと思いました。

また、ロッキード事件前後の田中派の状況や、当時の小沢一郎との確執など政局についての裏話も盛り込まれており、最近の話では特に恩讐を越えた小沢一郎への働きかけの場面はなかなか迫力が有って引き込まれますし、逮捕取り調べ時の140日間完全黙秘で名前すら名乗らなかったエピソードや、刑務所暮らしでどう自分を保っていたかの話などは本当に凄みを感じます。最近めっきり少なくなった〈政治屋〉に思いを馳せ、令和の時代の政治について改めて考えるきっかけとなる本でした。

さて、ちょっと前まで暑かったのに、最近めっきり過ごしやすくなり、もう秋じゃないか、と慌てて恒例のお薦め本企画です。文学女子ABさんは中学生となり部活でお忙しいようですし、金次郎がE美容師に紹介した本をEさんに先んじて美容室図書館からレンタルされているとのことなので(笑)、今回はそれらを外して六作品選んでみました。楽しんで頂けると嬉しいです。

「盤上の向日葵」(柚月裕子著 中央公論新社):藤井二冠の活躍に沸く将棋界ですが、本作は将棋を題材にした長編ミステリーです。賭け将棋を生業とする〈真剣師〉が登場したり、動機をじっくり追いかけて描き込む構成だったりするので、ちょっと大人向けの内容のような気もしますが、もはやABさんは大人認定しているので遠慮無く紹介します(笑)。本屋大賞でも二位に入り、玄人の評価も高い作品です。

「流」(東山彰良著 講談社):20年に一度の傑作と言われた直木賞作品です。とにかく、先ずは〈青春〉に感情移入して読まされますが、重いテーマの〈中国と台湾〉、〈戦争〉、〈罪業〉、〈運命〉、〈血脈〉が読んでいるうちに心に迫ってきて、お腹いっぱいの読後感が得られる小説です。冒頭の「魚は言いました、私は水の中で暮らしているのだから、あなたには私の涙は見えません。」が読んでいるうちにじわじわ来ます。

「彼女の色に届くまで」(似鳥鶏著 KADOKAWA):こちらは軽いタッチで楽に読める絵画ミステリーです。適宜挿入されているかなりカジュアルな美術関連の解説が結構笑えます。伏線もきちんと回収されてスッキリしますし、コミュニケーション能力の低いヒロインの雑な説明を、意図を汲んだ主人公が分かり易く丁寧に解説しようとするあたりはサラリーマン的で個人的には好みです。中学生が好きかどうかは微妙ですが(笑)。

「十二人の死にたい子どもたち」(冲方丁著 文芸春秋):映画化もされて話題になった作品ですが、自殺サイト経由集まった十二人が集合場所で死んでいる十三人目(?)を見つけるところから始まるミステリー仕立てのヒューマンドラマです。〈十三人目の謎〉、個性的な登場人物それぞれの〈死にたい理由〉が気になって止まらなくなり、金次郎はかなり夜更かしする結果となりました。同じ著者の「天地明察」KADOKAWA)は豊かな才能を活かしきれず、自信も持てず進むべき道を見出せずにいる〈碁打ち侍〉の成長ストーリーです。信念とひたむきさが心を打つ本屋大賞受賞作です。

◆「福家警部補シリーズ」(大倉崇裕著 東京創元社):2009年(NHK)、2014年(フジ)にドラマ化された作品ですが、本シリーズ全五作「福家警部補の挨拶」「~再訪」「~報告」「~追及」「~考察」はシンプルかつクオリティの高い本格推理でお薦めです。一見地味で頼りなく映る女性刑事福家警部補の醸し出す底知れなさの迫力が読むほどに増して行くのですが、彼女の心理描写が一切なされないところがこの効果を生んでいると思います。

「6時27分発の電車に乗って、僕は本を読む」(ジャン=ポール・ディディエローラン著 ハーパーコリンズ):読書愛好家の話かと思って読むと、いい意味で裏切られます。主人公は電車の中で本を音読するなどかなり変ですし、フランス文学らしく情景は退廃的なのに、不思議と読後感が爽やかで、何となく希望を感じられる気分になるのがいいです。老人ホームでのやりとりなど、笑ってしまう場面も有り、フランスでベストセラーになったというのも頷けました。

(これまでの紹介記事はこちら)

金次郎、中学生になった文学女子への本の紹介に挑戦

金次郎、懲りずに文学少女に本を紹介+楡周平作品を読む

金次郎、本の紹介を頼まれてないけどまた紹介+直木賞作「熱源」を読了!

金次郎、本の紹介を頼まれる+2019年4~5月振り返り

 

毎回ウケないのに海外文学を入れ込みたくなってしまう金次郎の悪癖が今回も出てしまいました(苦笑)。

投稿者: 金次郎

読書が趣味の50代会社員です。

「いつの間にか読書の秋が始まり、慌てて文学女子に本を紹介」への4件のフィードバック

  1. 金次郎さん、ご無沙汰しておりますm(_ _)m

    ABちゃんの通う学校は二期制なのですが、中間テストがコロナで吹っ飛び、先週いきなり期末考査一本勝負、というなかなかハードル高い試練を迎えました。テストの10日ほど前から読書を我慢して無事に乗り越えることができましたが、何故か図書室で本を借りてきて、なので私だけが読みました(笑)

    前回ご紹介いただいたもの、ほぼ読み終わりました。「カディスの赤い星」は、時代背景が難しくて…登場人物や組織の名前も難しくて…てこずったようです。
    「君の膵臓をたべたい」と「また、同じ夢を見ていた」、どちらも気に入ったようです。
    「慟哭」は私が一番最初に読んだのですが、ゴール目前で「えーっ」と叫びました。まったくわからなくなって、これはもう一度読み返せということか?と。読みきって、ああそうかと思えましたが、ABに「君たちも叫ぶよ」と予告し、そしてABは読みきっても理解できなかった模様。
    「理由」、「戦場のコックたち」、「夜は短し歩けよ乙女」と、読みきったぜ、くらいな感想しか出てきませんでしたが、読みきったので、良しとしてくださいませ。

    「線は、僕を描く」ようやく予約が回ってきました。「慟哭」の次に読んだからか、ひたすらニコニコと。って、これは感想じゃないですね。

    「難事件カフェ」のあとがきの千葉紹介が非常に気に入ったようで、他のも読みたい、と言われ、「戦力外捜査官」を借りました。今回ご紹介いただいた似鳥鶏さんも楽しみです。
    金次郎さんが〈夏〉小説で紹介していた
    「春期限定いちごタルト事件」が気になり…春だけど…借りました。米澤穂信さん、「満願」の方ですよね? 小市民とのひらきがすごいです(笑)
    ABちゃんが気にいれば、いずれもシリーズを読み進めようと思います。
    美容室図書館からの「国宝」は捗らず。腰を据えて、私がじっくり読みます。

    1. 恵子さん、こんにちは。丁寧にコメント頂きましてありがとうございます。期末試験終了ということでお疲れさまでした。よく考えると初めての試験ですよね?これから長く続く試験人生の始まりということで、大変とは思いますが、やっぱり色んな可能性が有るという意味ではうらやましい限りです。
      「慟哭」も「カディス」も超おすすめミステリーなのですが、ちょっと早かったかな。。。やはり48歳のおじさんとして、中学生女子にドンピシャの本を紹介するのは難易度が高いですね(笑)。少しずつ経験値を上げ、打率が上がるよう頑張ります。最後は恵子さんが楽しんで読んで頂けるのを心の支えにしておりますのでどうぞ宜しくお願いします^^
      米澤先生は他にも長編小説を書かれているので今度ご紹介しますね。もう次回の分のストックも大丈夫そうなので、近々読書の秋第二弾をやりますね!住野先生の最新刊も読まなくては。

      1. 金次郎さん、ありがとうございます。
        ABちゃんの学校図書室は、1年生への貸出が火曜と決まっており…コロナ密を防ぐため…今日が期末考査後最初の貸出日。前回、母のために借りたことになってしまった本を再度借りるべく図書室に行く気満々で登校したのですが、「師匠が紹介してくれた本」と、一緒に「流」を借りてきました。一度ブログを読んでその内容を覚えているとは… 記憶力が枯渇している身には、羨ましい限りです。
        ちなみにお友だちに「それ、どんな本?」と聞かれ「知らない」と答えた模様。「じゃあ、なんで借りるの?」と。説明、難しいですよね(笑)
        取り急ぎの報告でした。

        1. 恵子さん、お返事遅くなりました。記憶力の枯渇、全くもって同感です(笑)。ABさんが学校でミステリーな存在にならぬか心配です。もう少し有名ブロガーなら良かったのですが。。。メジャーになるべく頑張ります^^

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